「北米ゲームバブルの崩壊の序曲」と「欧米にも広がるプロセッサ性能至上主義の崩壊」で書いてきたように、日本発の変化が全世界に広がっています。DSは日本で空前の大成功をおさめ、欧州でもTouch Generations!のソフトが大ヒットし、北米でも『脳トレ』がじわじわ売れています。
こうした現状認識が日本のゲーム業界内に浸透しつつあります。ゲーム開発者のあれれさんや、ゲーム系ライターの野安ゆきお氏も同じようなことを書いておられます。
ゲームのマボロシ: E3大幅規模縮小から考える
北米ゲーム業界にとって、日本のゲーム業界には北米追従路線で居てもらった方が、自分の土俵で戦える訳ですから、有利だったはずです。しかし日本のゲーム業界が素直に日本市場で受けるソフトを作り始めたら、逆説的に再び北米を制することになるかもしれません。今年の年頭にも書きましたが、日本のゲーム事情は、北米より数年先行している可能性があるからです。
(略)
少なくとも今、ゲームのイノベーションは北米ではなく日本で起こっていると言い切ってしまって良いと思います。
ゲームは、10年周期で変化する〜E3の縮小と、DSの大ヒットが意味するもの (デジタルエンタメ天気予報)
日本では、すでに変化が起き始めたようです。ヨーロッパでも、日本と同じように、じわじわとDS用ソフトがビッグヒットを記録するようになり、変化の波が訪れている模様。いずれ北米地区でも、似た状況になるでしょう。2〜3年後には、ゲームが新しい時代に突入したことを、全世界が理解すると予想されます。ボクも、あれれさんも、野安氏も、共にE3の縮小を変化の象徴として捉えています。同じ会社の人との雑談でも、他社の知人との雑談でも話題にのぽりましたが、E3の縮小を北米ゲームバブルのピークアウトと認識している人はかなり多いようです。もちろんゲーム業界人の間で投票をしたわけではないので、この見解が圧倒的多数かどうかはわかりませんが、認識が広がっている確かな実感があります。
市場で目立っているのは任天堂ですが、最近はセガもかなり変化を見せつつあり、セガトイズとゲーム部門の連携がはっきり感じられるようになってきました。家庭用ゲーム部門には、まだまだ変化への抵抗勢力は存在すると思われますが、変化に乗った人たちが成功すれば、遠からず変化は全社に広がるでしょう。
今回の市場拡大にもっとも大きな貢献をしたのは任天堂ですが、そもそも日本のユーザーと市場が新しい変化を受け入れたという事が基本にあります。いや、より正確にいえば、ユーザーの変化に一番最初に対応したのが任天堂だったという事です。
まず任天堂ありきで市場があるのではなく、まず市場ありきです。すなわちこの変化は、日本のユーザーの変化です。日本のユーザーや市場は、世界中のユーザーに起こる最先端の変化をとらえるアンテナとして機能しています。
数年前に最初の変化が起こった時、少なくないゲーム業界人は「ユーザーが保守的」「ユーザーが悪い」と言い出しました。そして新しい変化に背を向けて、変化の遅い地域である欧米に逃げ出そうとしたのです。しかし今や、DSを中心とした変化は欧州に広がり、『nintendogs』が300万本以上売れていますし、『脳トレ』も着実に広がっています。また北米でも『脳トレ』はしっかりジワ売れしていますし、DS Lite以降、ハードの販売台数はPSPを一気に引き離しました。
この変化を目の当たりにしたEAは、PSPからDSへの重心シフトを表明。 E3以降は、欧米のパブリッシャーが続々、Wiiへの注力を打ち出しました。それがいわゆる「Wii60」路線です。欧米は日本よりも変化が遅いため、新しい変化と従来のやり方の二股をかけなければいけないのですね。
もし北米がゲームの中心地であり、日本の変化がローカルの現象に過ぎないなら、「Wii60」ではなく、「XBOX360」路線で十分です。もしプロセッサ性能市場主義がゲーム業界で強く支持されているなら、PS3とXBOX360をサポートすれば十分のはずです。しかし現実にはWiiの存在感が急激に高まっています。
まぁここまで状況が進んでも、変化に背を向ける人はいらっしゃるでしょう。
一昨年の年末、DSが売れ、PSPが初期不良騒動を起こしても、「ガタガタ騒ぐのはネット上だけ。ユーザーはすぐに忘れるよ。ハードの欠陥もソフトのバグも仕様、仕様。タッチペンなんてすぐに飽きるよ。やっぱグラフィックでしょ」と言っている人たちがいました。
去年の年末、DSが日本で大ヒットしても、「しょせん日本の出来事。これからは欧米の市場が中心。欧米ではPSPが売れている。やっぱりグラフィックだよ」と言っている人たちはいました。
そういう人たちは今、どんな言い訳を並べるのでしょうか。日本の次は欧州、欧州の次は北米、さあ次は? 中国ですか、韓国ですか。新しい変化が地球上のあらゆる地域を覆い尽くすまで、続けるつもりなんでしょうか。最後は宇宙旅行か、時間旅行でもするつもりかな(笑
もう好きにしてください。
オマケ
以前のエントリーに対するはてなブックマークのコメントを見ると、E3の縮小と東京ゲームショウの変化を混同している人がいらっしゃいました。RanTairyu氏ですね。RanTairyu氏はボクのエントリーに対して、なかなか鋭いコメントをしてくださることも多いのですが、一方で不十分な知識や事実誤認に基づいたコメントをすることもしばしば。
東京ゲームショウは縮小するわけではなく、東京国際映画祭や東京国際アニメフェアと統合することで、海外へのコンテンツ発信力を強化する目的。経済産業省の主導によるコンテンツ強化の国策です。 E3縮小とは真逆の出来事。
→東京ゲームショウ、来年より「国際コンテンツカーニバル」に統合か
しかしあの記事は、ちょっと煽り気味に書いたのですが、案の定、釣れるべき人たちが釣れた感じでしょうか(笑
とはいえ、北米ゲーム業界のピークアウトは現実の出来事。積み上げられた現実を認めるのを拒むとすれば、事実誤認に走るか、皮肉でも書くしかありません。いやはや。
それにしてもkanose氏の、WiiはPC-98となるかもしれない、日本のゲーム業界は孤立するかもしれない、という主張の続きが読みたいもの。まぁオンラインゲームについての記事で、WiFiコネクションで注目を集めた任天堂が抜け落ちているなど、ゲーム業界にうとい部分が見られますから、ゲーム業界の潮流とはかけ離れた認識をお持ちだと思いますが、逆にいえばユニークな視点ともいえるわけで、少し興味があります。
Posted by amanoudume at 2006年08月19日 01:08 個別リンク
コメント
んー。なんというか、はてなブックマークのコメントは、「態度が気に入らない」とかそういう話ですね、要は。いや、ネガティブコメントでも、ボソッと一言で記事を全否定や疑問視するような理屈を吐くならカッコイイと思いますけどね(正直、DAKINIさんが負けを認めるところを見てみたい気もするし(笑))。知識や言葉を商売にするプロのライターさんもいるようですが(しかも実名で)。
もう少しがんばっていただきたいですね。
投稿者: bin3336 | 2006年08月19日 07:05
野安さんの記事は変化を的確に捉えていると思いました。
なるほど、ユーザー獲得のために必要とされた大掛かりなイベント、美麗なグラフィックもユーザーを獲得した後ではそれがお荷物にもなってしまうというのは皮肉な話です。
焼畑農業を続けて、まだまだ作物は取れるとそのやり方を変えなかった(変えられなかった)人と、
このやり方を続けて行けばいずれ畑はなくなってしまう。と、危機感を感じ、模索し続けた人の差がこの現象の正体でしょうね。
投稿者: BAN/ | 2006年08月19日 08:03
日本の開発者に向けて言いたいです。
リッチなハードで開発するソフトが
重厚長大でなければならないという
呪縛から抜け出して欲しいと願うばかり。
はっきり言って開発者自身が
一番のゲームマニア化してしまっている
から、やれ画像が凄いとか、
各パーツに当たり判定があって
欠損するとか(バンナムのPS3ガンダ・・・)はい?それがなんだっつーの?って感じです。
おおよそPS末期からそんな
独り善がりゲームばかり発売されて
いわゆるライトユーザーが
「なんか複雑で面倒だな、もうやーめた」
って少しづつ離れていっちゃった。
なぜ?性能向上=画像が凄いとかに
なってしまうのさ。
「いーかげんに目覚めなさい」と。
ゲームをするかしないかの
選択ではなくて、ゲームにしようか
他にしようかという選択を
ユーザーはしているんです。
新鮮な楽しさを提供して下さいよ。
期待しているんですよ、
性能至上にも新しい楽しさをね。
話は変わりますが、
ナムコって文字ぴったんとか
塊魂とか良いゲーム出してたのに
最近どうしちゃたのかな。
投稿者: white | 2006年08月19日 13:36
>BAN/さん
焼き畑というのは良い例えですよね。
既に重厚長大路線は焼き尽くされて荒れ野になっているのは間違いないと思います。
まあまだそこにしがみついてる人がいるのが滑稽なんですが……
ただ、なんかここで見落とされてるような気がするのが
「今のDS路線も既に焼き始められてる」って点なんですよね。
根本的に焼き畑を辞めた訳じゃないんですよ。
でも、その次に焼く所を探しながら開発ができていない(あるいはその余裕すらない)。
なんかDS路線が来たからって盲目的に突撃しすぎな気がします。
10年前にPS路線が来た時そのままに。
いやまあ焼畑農業を辞められればそれが理想的だとは思うのですが。
投稿者: R2 | 2006年08月20日 03:09
> bin3336さん
プロのライターなんて言っても、制作者に比べて制作の経験や
知識があるわけではなく、企業の実態にも疎かったりするのが実情
ですし、普通のユーザーと比べて特別、眼力があるわけでもない。
ユーザーとの最大の違いは、時間が使える分、インタビューなどの
1次情報を得られることや、(お金をもらえるレベルの)文章を書ける
ことでしょうね。もっとも、お金を払うに足るかどうかを決めているのは
ユーザーではなくて、編集だったりするので、イコール実力があるでは
ありませんね。
>BAN/さん
まぁ任天堂が危機感を訴えても、「売れなくなるのはお前のとこだけ
だろ(プゲラ」というのがゲーム業界の反応でしたからね。負けていた
からこそ、早く転換できたということであって、特別、任天堂だけが
先見の明があったわけではないでしょう。
>whiteさん
バンダイナムコは、必死なんでしょうね。枯れるとわかってるので、
あがいているのでしょう。
>R2さん
> なんかDS路線が来たからって盲目的に突撃しすぎな気がします。
そもそも永遠に勝ち続けられる路線なんて無いんですよ。だから
いける時には一気にいくのがいいと思います。あれもこれもやってる
ほど余裕のあるところは無いでしょう。
それに、R2さんがおっしゃるほどには、各社ともDS路線に集中できて
いないのが実情です。Wii60というのも、結局両方やります、ですから。
> その次に焼く所を探しながら開発ができていない
種まきについては、大手級なら各社ともやっていますよ。ただ、当然
ながら、種まきの大半は収穫が無いわけです。そしてユーザーの
人たちに見える(見えやすい)のは、収穫があった種だけです。
投稿者: DAKINI | 2006年08月20日 12:43