ジョブズキーノート "It's Showtime" - Engadget Japanese
アップルの新iPod発表会が開催され、同日iTunes Storeにてゲームと映画のダウンロード販売が始まりました。iPod向けゲームの配信が始まることは、多くの人が予想していたと思います(マイクロソフトのZuneも少し刺激になったのかもしれません)。iPodや携帯ゲーム機のような「専用機」がPCと携帯電話のような「汎用機」に吸収されてしまうという予想に反して、ここ2〜3年、専用機がやたらと元気です(発熱地帯: 専用機の見直しが進んでいく時代)。
製品の中にどんなプロセッサが入っていて、それがどんな汎用的な処理ができるのか、ではなくて、製品の大きさや形やインターフェース、快適さといったものが重視されるようになってきました。プロセッサベースで考えると、このチップはあれもこれもできるから、それならあの製品とこの製品を統合してしまおう、という考え方になりがちなんです。けれども今みたいに、プロセッサ性能がある一線を越えてしまった時代になると、中身は大体同じだけど、異なるパッケージ、異なるインターフェースをつけて、異なる製品にした方が便利なんじゃないか、という考え方になってきます。あの「ユビキタス」も考え方として似ていますね。
PCは汎用機の代表格ですが、低価格製品群やファミリー向けの製品群を中心に、Web専用機化が進んでいくと思います。ウルトラヘビーゲーマーはハイパフォーマンスPCを支持し続けると思いますが、Web専用機PCと比べて、圧倒的にボリュームが小さいでしょう。
またCPUも、技術的にはそちらに向かいつつあります。CPUのメニーコア化が進んでいるという記事を読むと、あたかもパフォーマンス追及のためだけに行われているように読めるかもしれませんが、じつはそうではありません。マルチコアになることで、バリエーションが広がるんです。
消費電力が大きいものの性能を重視した「多数のコア」版のCPUが作れるし、消費電力を極端におさえた「少数のコア」版のCPUも作れるんです。シングルコアのプロセッサの場合、色々な製品が1種類の製品に統合された方が都合が良かった。けれどもマルチコア、メニーコアになると、色々な製品の中に色々なコア数で入れることができます。
インターネットブームが起こり、常時接続が当たり前になり、ブロードバンドが浸透したこの10年の変化はとても大きいです。しかしその10年をもってしても、PCがリビングに進出することはついに叶いませんでした。それだけインターフェースやユーザーの生活習慣は強固なのです。無理に単一の汎用機をあちこちに押し込むよりも、複数の専用機にプロセッサを押し込むほうが手っ取り早い。とプロセッサ産業が考えるのは自然なことです。
iPodのゲーム機能(以前もちょっとしたゲームは遊べましたが)、DSやPSPの高機能化(Webブラウザなど)など、専用機が専用機能にこだわらず、色々な機能を取り込み始めているのも興味深い現象です。使い勝手を重視すると、「汎用機→専用機」の流れになるといっても、一方で持ち歩くものは数少なく、置く物はコンパクトに、という欲求もあいかわらず存在します。
そのため「複数の専用機」の時代には、1つ1つの専用機が本来の機能を失わない程度に、周辺の機能を取り込んでいきます。その方が他のカテゴリーの製品に対して、競争力を持つからです。例えば、iPodはゲームを遊べる機能を持つことで、音楽が聞ける携帯ゲーム機への競争力を持ちます。逆に携帯ゲーム機は音楽を聴く機能をもつことで、ゲームの遊べるiPodへの競争力を持ちます。
PCはWeb専用機へと転じつつあります。このようにして、「汎用機」の時代から「複数の専用機」の時代へと移り変わりつつあります。どれか1種類か2種類のハードウェアが他のすべてのハードウェアを飲みつくす「王様のハードウェア」は存在しません。
さて、ではこのような時代に、ソフト開発者はどのようなソフトを企画し、制作していけばいいのでしょう?
ちょっと時間が無いので、くわしく書けませんが、ボクは2つの事が重要だと思っています。
1つは「カタチ」(インターフェース、使われる場所や環境、ユーザーの生活習慣)を熟慮した商品企画。成功するかどうかはわかりませんが、このフィギュア型メディアはそうした商品の1つといえるでしょう。
もう1つは「ハードウェアを越えた付加価値」を育てることに注力し、その付加価値の自然な要請にしたがった戦略を取ることです。ジョブズの講演の中の台詞がその良い例です。
iTunesであらゆる種類のコンテンツが買える。PCでもMacでもiPodでも楽しめる。でも大画面テレビでは?iTunesというハードウェアを越えた付加価値を育て上げたアップルが次にどんな製品を出すべきか。それは、iTunesに繋がっていない機械はどこにある?というシンプルな疑問から、簡単に答えを出せます。育て上げた付加価値が自然と、次の入口と出口を決めるのです。 Posted by amanoudume at 2006年09月14日 03:19 個別リンク
コメント
歴史は繰り返すってほど大げさな話じゃないですが、
MSXのホームコンピュータ構想を思い出しますね。
「1台のMSXですべてを管理する」というアイデアはMSX(というか当時のPC)の非力さもあって失敗しましたが、後に家電製品の中にMSXエンジン+ROM(専用プログラム)として組み込まれる形で、「MSXですべての家電をコントロール」はある意味で達成できたような。
最近のプロセッサ産業側が、
旧世代になってからのいわゆる「組み込み用」になったときのカスタマイズの利便性を、設計時から考慮するようになったという風に取ればよいのでしょうか?
投稿者: おおぬき | 2006年09月14日 12:55
はじめまして。『しあわせのくつ』を書いているwanwangorogoroと申します。
『しかしその10年をもってしても、PCがリビングに進出することはついに叶いませんでした。それだけインターフェースやユーザーの生活習慣は強固なのです。』という点に全く共感です。生活習慣を変えさせる程のサービスってどうあるべきなんでしょうね!?
考えてみたいです。
投稿者: wanwangorogoro | 2006年09月14日 23:16
私も余裕がないのにコメントしたくなりました。手短にします。
> 1つは「カタチ」(インターフェース、使われる場所や環境、ユーザーの生活習慣)を熟慮した商品企画。
> もう1つは「ハードウェアを越えた付加価値」を育てることに注力し、その付加価値の自然な要請にしたがった戦略を取ることです。
要は、ソフト的には、「(消費者の用途、ニーズからの発想、ハード+ソフトを目的のためにどう組み合わせて新しい『専用システム』を提案するか(ニーズの発掘?)」という道と、「消費者の生活に入り込んだコンピュータネットワーク空間を制覇してメディアミックス的、デバイスミックス的に『汎用システム(世界観?)』をそこにどう溶け込ませるか」という道があるということでしょうかね。(全然「要」になってませんが(笑))
まあ、両者の補完関係を利用するという考えもありますね。
投稿者: bin3336 | 2006年09月15日 00:06
>おおぬきさん
そういう捉え方もできますし、ニーズの二極化への柔軟な対応とも
言えます。
AMDがCPUにGPUを吸収しようとしていますが、そこそこのメディア
性能をもったPCで十分というユーザー層が増えていることへの
対応もあるのでしょう。
リビングPC的な家電的なデバイスは、そこそこの性能で、消費電力が
低く、コストが安い事が求められるので、PC以外の市場へ本格的に
進出する事を考えているのでしょうね。
>wanwangorogoroさん
これから2〜3年で何が起きるか。
リビングPCというか、PC的家電というか、セットトップボックスというか、
ともかくテレビに接続するカタチのインテリジェントなデバイスの座を
狙って、さまざまな産業のさまざまな企業が新製品を発表するの
だと思います。
>bin3336さん
> 『専用システム』を
脳トレも専用システムの好例だと思います。あれをソフト単体で
捉える人は実に多いし、実際だからこそPCや携帯電話のIQソフトの
移植がDSで盛んなのでしょうが、専用システムとしてのソフトという
視点を失っている人が実に多いですね。
> 『汎用システム(世界観?)』
日本版Web2.0なんかは、近い匂いがありますよね。ゲームではまだ、
PCと携帯電話でうまくネットワークを密結合させた例が無いですし、
まだまだこれから。
投稿者: DAKINI | 2006年09月15日 01:29