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このサイトは、ゲーム開発、およびゲーム周辺の周辺技術や動向について日々考察し、毒舌的に物を書き続けることを通して、「ゲームの未来形」という大テーマに対して、何か考えを深められるといいなあ・・・・・・というサイトです。

2006年08月04日

足りないのはバクチ打ちの才能

去年書かなかったこと

去年、「成功しているソフト企業の共通点」という記事を書きましたが、このとき意図的に書かなかった共通点が1つあります。グーグル、アップル、任天堂いずれもハードとソフトを両方やっている会社だということです。

グーグルはインターネットOSを作り上げつつある、と言われますが、そのハードウェアはあの多数のサーバー群。ネットのあちら側にハードとソフトを両方持っていったのがグーグル。アップルはiPodにおいて、ハードで損をしてソフトで回収するというビジネスモデルの逆、すなわちソフトではもうけず、ハードであるiPodで利益を出すビジネスモデルを成功させました。任天堂は2画面やタッチパネル、マイクなど、ハードウェアのインターフェースを利用し、さらに新しい切り口のソフトを生み出すことで、新しいユーザーを獲得しました。WiFiコネクションにしても、ネットワークサービスではお金を取らず、あくまでソフトの売上やハードの拡販効果で回収するやり方です。

ここ数年の新しいビジネスを見ていて感じるのは、やはりモノを売る商売は強いな、ということ。新しいアイデアやコンセプトのビジネスはいくつもある中で、比較的うまくいっている、つまり利益を出せているのは、ハードを絡めたケースが多い。モノを買うという行為は、単にハードウェアを購入するという意味ではなく、その後ろにあるサービスを含めて買うという事を意味します。じゃあサービス単体だけ切り離して売れるかというと、とたんに色あせる。何だかんだいって、モノを買うという行為がユーザーにとっても一番わかりやすいメタファーなんでしょうね。


わかってるけど、やりきれない

そういう意味では、スクウェアエニックスの和田社長の分析は的確です。
「シェアのためのM&Aに意味はない」 (デジタルエンタメ天気予報):NBonline

こういう環境下で、意識してかき混ぜている人がいれば、いつ出るかは分からないけど、いつか何かが出てくるんですよね。ハードウエアに詰め込まれたそれらが、化学反応を起こりやすくする触媒になっているわけです。任天堂さんには、そういうカルチャーがあって、小ネタをいっぱい持っている。

すごく変なセンサーがいっぱいあるみたいですね。ああいう姿勢は本当に立派ですよね。任天堂さんやiPodの採っている戦略というのは、やっぱりハード発で新しい環境を整備するということですから、あの(モノをベースにしたアイデアを出すという)やり方は完全に正しいですよね。

ここ最近、和田社長に対して手厳しい批判の声も上がっていますが、やはり経営者としては優れた才覚を持っている人物だと思います。ただ、なかなか結果が出てきていないのも確か。あれだけ「オンライン、オンライン」言っていたのに、『FF11』以外のオンラインゲームが育たずにお寒い状況ですし。
スクウェア・エニックス、WIN「ファンタジーアース」運営をゲームポットに移管。アイテム課金へ移行
『フロントミッションオンライン』も、本音としては手放したいんじゃないでしょうか。自社タイトルがベースになってるので、さすがにみっともなくて出来ないだけで。

ここ数年のチャレンジの失敗が目立ち始めた一方で、学んだことも少なくないようです。今回のインタビューでも、理屈倒れのビジネス論は減ってきた印象を受けます。一時期は「ポリモーフィックコンテンツ」みたいな因果が逆になっている話ばかりでしたからね。

いまは戦略オプションをどう考えているか、戦略オプションを持った状態で談論風発の場をどう作るか、なんですよ。そこで何が出てくるかまでは保証できない。確率の問題ですねという話になってくる。確率の問題は、倒産しないように(笑)財務でコントロールする。そういうバランスなんだと思いますよ。
スマッシュヒットを飛ばしている任天堂さんだって、狙いすまして打ってきているわけじゃない。DSの「脳トレ」のヒットは狙ったわけじゃなくて偶然こうなったという側面もあると思いますよ。でも出るべくして出たソフトであり、起こるべくして起きたスマッシュヒットなんです。ここが難しいところです。
「確率論」という理解はかなり正しいものです。しかし同時に、この確率は平等ではないのも現実です。何度もヒットを飛ばす人はいますし、さまざまな芸風に挑んで成功させる人もいます。鼻が利く人って、やっぱりいるんですよね。ある程度は経験で補える部分もありますけど、個人のセンスの鋭さには及びません。ボクはこうやって毎日理屈を書き散らしてますけど、一方で理屈を信じてません。他人に説明するには理屈が必要なんですけど、理屈から何かが生まれるわけではありません。


ギャンブルなんだよね

例えば、DS(2画面ゲーム機)のアイデアは山内相談役の発案だったという有名な話があります。今でこそ、誰もが成功して当然というわけですが、発表当時は懐疑的なムードだったわけで。無駄な仕様、冗長な機能、という意見がネット上にも多数ありました。ところが今では、まぁ実話か2chの作り話かはわからないけど、おばあちゃんが「(PSPを見て)あれ、画面が1個しかないじゃない。旧型でしょ」とコメントするという話があるわけで(笑

理屈で説明をつけることはできますが、理屈から出てくるような発想じゃないでしょう、これは。本当に大きくヒットする物は、どこかで理屈を越えるような所があります。娯楽ってやっぱり最後の最後は、「勘」とか「好み」で決まっちゃう部分があって、100%という事は絶対に無いんですけど、でもヒット率の高い人、ホームラン率の多い人は存在するんですよね。

ギャンブルみたいなもんで。「運」はあるんだけど、それは大前提で、あらためて言うようなことじゃない。麻雀にしても強い弱いってあるでしょう。100パーセントの無い世界だから、強い人だって運が悪ければ負ける時は負けますけど、でも長いことやってると、やっぱり強い人はいるわけですね。だからボクは、ヒットの原因分析をするときに「運」を持ち出さないようにしています。「運」はもちろんあるんですけど、それは大前提としたうえで、ギャンブルの上手い下手に注目しているわけで。「運」といってしまうのは思考停止でしょう。

スクウェアエニックスの例でいえば、チーフクリエイティブ(バクチ打ちの才能)の不在が大きいです。今のスクウェアエニックスって、傍から見ると、相当「勘」が悪くなってますよね。打率悪すぎ。
マネージメントについても、掛け金の張り方というのは確実にあって。無制限に資金は無いので、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるではもちませんから。すると、鼻のいい人を集めるしかありません。社内で埋もれているのを見つけるか、まだ芽が出ていない若手を育てるか、外から連れてくるか。社内の場合は、前回の記事にかぶりますが、低予算でいくつも場をもうけて、何度も勝負させて、その結果、勝率の悪い人は外して、勝率のいい人に掛け金を張るしかありません。

まぁ娯楽の世界に100パーセントは無いとはいっても、ギャンブルに「必勝法」もどきがあるように、ある程度「必勝法」もどきは無くはないと思います。100パーセントではないけど、確率の高いやり方、あるいは確率の高そうなやり方ですね。その辺は今までにも少し書いたことがありますし、今後もたまにポツポツと書くつもりです。

Posted by amanoudume at 2006年08月04日 22:56 個別リンク
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コメント

最近のセガも、この条件に当てはまっている企業ですね。アーケードでは一人勝ちの状態です。
昔からバクチばかりやってた印象の会社ですが、三国志大戦をDSに投入するなど、勘も鋭くなってきています。
後はコンシューマー部門が、アーケードやおもちゃ部門の後追いから脱却できるか、というところでしょうか。

今回のエントリーは山内相談役の語録みたいですね。
山内氏は成功の理由について聞かれるとよく「運が良かった」っ語りますけど、それはあらゆる手を尽くした後の運なんですよね。

あと、任天堂がゴルゴ13のような命中率でヒットを生んでるようなイメージがあるのは、フェードアウトさせ方が上手いからではないでしょうか?

>水原さん
> 最近のセガも、この条件に当てはまっている企業

そうですね。色々な見解はあると思いますが、サミーの里見氏の
眼力はかなりのものがあると思いますし、サミーの資本力がバック
についたのは大きいと思います。

セガのコンシューマー部門は他部門が稼いだ金をドブに捨て続けた
わけで、大胆な手を打たないと変われない気もしますが、どうなんで
しょうね。

いずれにしてもセガは伝統的に、コンシューマー部門以外が稼いで
きましたし、真に優秀なのもそちら側ですね。


>カリガリ博士さん

本当にバクチが上手い人は「運がいいだけです」としか言いませんよね。
手の内を明かすわけが無い。その言葉は真実ではあるけれど、額面
どおりには受け取れない、といったところでしょうか。

山内氏がすごいのは、自分と考え方が同じだとか違うとか、そういう事を
越えて人の価値を見抜ける眼力と胆力でしょうね。子飼いの部下でもない、
合理性という点では考え方だってある意味対極な岩田氏を社長に選ぶ
なんて、すさまじい器ですよ。

ボクは、今まで生きてきて、直接会って話したことのある人間で、そんな
大器を見たこと無いです。ふつう、人は自分の物差しで他人を計るわけで。
それを越えるというのは、凄まじいですね。頭の良し悪しとか、そういう
話ではない。もっと根源的な違いだと思いますね。

あと、任天堂が強いのは、他所と違うことをやろうという意識が非常に
強く働いているからだと思います。外す時は盛大に外しますが、
当たった時の「親の総取り感」はすごいものがありますよね。
やっぱり大抵は小利口さが勝ちがちですから。小利口というのは
小器という程度のことでしかない、という事が広く認知されないと。

その盛大にハズしたとしても、それを受け止められる社風だったり、揺るがない経営だったりが大事なんでしょうね。
じゃないとバクチを打つたびに会社が傾く事に…

バクチが打てないのはそもそも賭け金を持ってないからかもと思ったり。

ヒット作で儲けた金の使い道が悪いんじゃないでしょうか?

DSを考案した、という山内氏の発言は'04 2/13のDS発売以前、1月の発表直後のものです。

山内氏は正確さ・正しさよりも目的を重視してモノを言う人なので、実際に二画面を山内氏が発案したものなのかどうかはわからないのですが、要するにこれは「ケツを持つから存分にやれ」という新社長体制への援護射撃なんですよね。ここまで奇抜なものを出す際に、岩田新社長へのしかかるプレッシャーは相当なものがあったと思われます。特にこの時期、「二画面・タッチパネル」って任天堂ヤバいんじゃないの、という雰囲気が若干優勢であったと記憶しています。

なので、全国紙で「DSの責任は自分にある、失敗しても悪いのは自分」と言うことで新体制への風当たりを和らげつつ、いまDSが成功するとDSの話題では表に出てこない。この人は、やはり大人物ですね。

新体制の岩田社長も最近は風格を身に纏い、新守護神的なオーラを放っているとN社に近い人から聞きました。体制変化によって揺れた社内的にもかなりまとまってきたのではないでしょうか。先日の経営方針説明会の竹田専務の発言などを見るとそう感じられます。WiiがDSのようにあたるかどうかは未知数ですが、DSに続いてWiiを当てれば、岩田任天堂は山内時代以上に「独創的にチャレンジできる力」を持てるでしょう。逆にWiiがコケると次が怖いですが。

和田社長の意見を見てると、アナリスト、開発者、他経営者の意見を聞いて
すごく分析しているなとは感じます
その一方、ユーザー視点で分析された形跡は全然ありません
・タイトルにユーザーは張り付いている
・ロード時間の質問に開発まかせで投げやりな返答
・ユーザーは自分が求める物を分かってない

ユーザーの声を汲み上げる感度、それが相当低い
確率をさげる大きな原因だと感じます

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