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このサイトは、ゲーム開発、およびゲーム周辺の周辺技術や動向について日々考察し、毒舌的に物を書き続けることを通して、「ゲームの未来形」という大テーマに対して、何か考えを深められるといいなあ・・・・・・というサイトです。

2005年09月10日

成功しているソフト企業の共通点

ここ最近成功しているソフト企業を見ていると、いくつかの共通点がハッキリ浮かび上がってきます。
それは「小さいアプリ」+「シンプルなインターフェース」+「生活密着」+「短いリリーススパン」ということです。

今、世界で一番成功しているソフト企業グーグル

あちこちのブログで、「グーグル対マイクロソフト」という構図で議論が行われています。
    ・Speed Feed 「Googleは本気でMicrosoftを殺す気でいる、たぶん。」
    ・Life is beautiful 「アルファギークはLonghornの夢を見るか?」
    ・Life is beautiful 「Google OS を妄想すると未来が見えてくる!?」

グーグルはWord(ワープロソフト)やPhotoshop(ペイントソフト)のような本格的なアプリケーションを作る気はないようです。インターネットが人々の生活に浸透していることを大前提に、誰もが必要とするような、生活に密着した小さなアプリを短期間にいくつも提供する、というスタンスです。

小さなアプリとは、写真アルバム、時計、ニュース、メール、メモ帳、株価チャート、天気予報、WEBサイトへのブックマーク、音声通話。いずれも小粋で、短期間で次々とリリースされ、インターフェースがおそろしくシンプルです。シンプルだからサイドバーに居座れるのですし、チュートリアルもいらないのですし、誰もがいとも簡単に使えるのです。
    ・PC WEB: 米Googleが「Google Desktop 2」をベータ公開、サイドバーを追加
    ・CNET Japan: グーグル、音声機能付きIM「Google Talk」を公開

いまや、生活に密着した小粋なソフトで勝負する時代になりつつあります。しかし実はそれはマイクロソフトが一番苦手にしていることです。実際、マイクロソフトはOSとOffice以外の分野では、ほとんど失敗しています。ヤフーとグーグルが圧倒的に先行し、追いつくのにあと何年かかるか予想がつきません。マイクロソフトはOSとOfficeという「レガシーを維持することで、シェアを守る」ソフトで食べている企業のため、開発の体質として、大きくてファットで複雑で気の利かないソフトをのんびり作ることしかできないのです。

浸透しつつある新しい価値観とルール

まだPCが人々の生活に浸透していない時代には、仕事で使うソフトをうまく作る企業が大きく成長しました。仕事で使うソフトの場合、大量の機能と高速な実行性能が求められ、そういう価値観でソフトは作られてきました。複雑な機能を必要としない多くの初心者は、メニューの9割を理解できませんし、意味不明な部分を「無視する」ことを強制されます。初心者にやさしいとは、メニューを10分の1にすることではなく、イルカ君を登場させてナビゲーションさせることや、長ったらしいチュートリアルを用意することでした。

もちろん、ソフト開発者の中には「初心者でも簡単に使える」「洗練されたインターフェイス」ことを目指してアプリを作る人もいました。しかしそのほとんどが、「仕事で使うソフトの常識」という枠の中でのシンプルさ、わかりやすさにすぎませんでした。例えば、メニューを2割減らして、チュートリアルを通常の3倍つけようという開発者はいましたが、メニューを10分の1にへらして10倍のユーザーを獲得しようと試みる開発者はほとんどいなかったのです。

それは間違いではありません。仕事で使うソフトなら、それでもユーザーは使ってくれたわけです。
ところが生活に密着するソフトでは、別の価値観に変わります。イルカ君に教えてもらわなければならなかったり、初心者本を買わなければいけなかったり、チュートリアルを潜り抜けなければならなかったり、メニューの9割が意味不明なソフトを、仕事でもないのに使う必要はないからです。

アップルもまたシンプル・インターフェースの文化

ハード、ソフト一体の企業という点で、アップルもまた「今一番成功しているソフト企業」といっていいでしょう。iPodは他社のオーディオプレイヤーと比べて、ずいぶん簡単なインターフェースです。PCの主な用途が仕事だった時代には、アップルはあまり成功できませんでした。ジョブズはつねにクリエイティブな世界を提示していましたが、残念、世の中の仕事の多くはそれほどクリエイティブではありませんでしたし、求められてもいなかったのです。

しかしPCが人々の生活に浸透し、デジタル家電が登場する時代には、価値観とルールが変わりました。「生活」において、人々はよりわがままになります。アップルはMacの時代のルールでは成功できませんでしたが、iPodの時代のルールでは大きな成功を手にしました。

ただ、一方で、小さなアプリやシンプルなインターフェースという思想は、パクられやすいのではないか?と心配する人もいらっしゃるでしょう。事実、ソニーが今、驚くべき勢いでアップルの商品や戦略をパクっています。
ですが悲観するにはおよびません。先週、アップルのiPod nanoとソニーの新ウォークマンが発表され、ネット上では驚くべき勢いでソニーへの失望感が広がっているからです。
    ・日経Tech-On! 「Appleとソニー,どっちも驚いた」
    ・わぱのつれづれ日記 「ソニー、有機EL/流線型ボディの20/6GB HDD「ウォークマンA」」
ネットメディアにとどまらず、あの日経でさえ、アップルには驚嘆し、ソニーには(失望のあまり)驚くのです。iTunesそっくりのCONNECT Player、アップルを真似た「パッケージへのこだわり」、プリペイドカード、・・・・。

あれ?  これって、どこかで聞いたことありませんか? ボクらは、こういうパクリに熱心な企業を知っているんじゃないかな? そう、マイクロソフトです。今のソニーはマイクロソフトによく似ています。自分のOSを普及させて利益を確保したマイクロソフト、自分の規格を普及させることに熱心でクローズドなソニー。

思えば、ソニーの経営者はマイクロソフト(やインテル)への嫉妬を抱き続けてきました。出井氏は「マイクロソフトのようにおいしい思いをしたい」という欲望をむき出しにしていましたし、SCEのトップである久多良木氏はマイクロソフトへの敵意をあらわにしつつ、インテル型のビジネスモデルを目標にしていました。

10年もそうしていたのです。ソニーとマイクロソフト、両者の顔や品位が似てくるのは自然なことでしょう。「俺のOS、俺のフォーマット、俺の規格、俺のチップを使え!そして俺様においしい思いをさせてくれ。ウッハウッハ」荒い鼻息が聞こえてきます・・・・。

はたしてアップルは同じ歴史をくり返すのでしょうか?
PCの時と同じように、パクる企業が勝つのでしょうか?
アイデアとクリエイティビティーで勝負する企業が、より資金力があり、より巨大で、徹底的にパクる企業に追いつかれてしまうのでしょうか?
たしかに、アップルをパクりまくったマイクロソフトが勝ったように、アップルをパクりまくっているソニーが勝つかもしれません。しかし現実には、生活密着型の市場において、マイクロソフトは負け続けています。ソニーもまた、デジタル家電の時代に入って、負け続けています。

なぜか? それはリリーススパンの違いです。
他社が真似することに熱心な間に、さらに前へ前へ進む。「短いリリーススパン」だからこそできるのです。グーグルは驚異的なスピードで、次々と新サービスを発表し、アップルはソニーがパクっている間に「iPod nano」という驚異的な商品を開発しました。「nano」は発表と同時に発売されましたが、ソニーの商品が発売されるのは発表されてから2ヶ月も先なのです。

ジョブズは決してソニーに怒らないでしょう。むしろ微笑むでしょう。なぜなら、パクることに夢中になっている間は、決してアップルの度肝を抜くような革新的な商品を生み出すことはできないからです。自分から勝負を捨ててくれているのです。怒るなんて、とんでもない。

ゲームソフト市場でも同じ現象が起きている

DSのTouch Generationの成功は記憶に新しいところでしょう。
電撃オンラインの実売集計によれば、DSの「脳を鍛える大人のDSトレーニング」が実売で50万本を突破し、「やわらかあたま塾」も今月中には50万本突破する見込みです。「nintendogs」と合わせると、この新規ソフト3本の販売本数が今年度のDSソフト市場の45%を占めます。新規ソフトは売れないという、ゲーム市場の「常識」が崩れたのです。

「脳トレ」と「やわらか」は、文字が大きく、わかりやすく、面倒なチュートリアルを必要とせず、生活密着型で、ボリュームも小さい、という特徴があります。すなわち「小さいアプリ」+「シンプルなインターフェース」+「生活密着」といった点を満たしています。「nintendogs」も犬との日常をゲームのメインに据えた、生活密着型のゲームです。また育成ゲームでありがちな、出会いまでの妙にひねったストーリーとか、お別れのエンディングとか、ストーリーちっくなイベントはありません。

また、これらTouch Generationのソフトは3ヶ月間に5タイトルという「短いリリーススパン」で発売されました。
ゲームの導入部にはプレイヤーを感情移入させるための濃厚なオープニングが必要だとか、複雑な操作系もチュートリアルさえしっかり作れば問題ないとか、メニューに膨大な情報量を表示したほうがプレイヤーは喜ぶとか、ステージやミッションの合間に長いデモを挿入することで遊び続けるモチベーションを高められるとか、どうせゲームはマニアしか買わないからライト層向けに作っても仕方ないとか、そういう「常識」が音を立てて崩れています。

また、例えば、DSの「ジャンプスーパースターズ」は30万本を突破し、確かに売れています。しかしDSを最も牽引しているタイトルではないのもまた事実です。一番売れるのは有名な版権をそろえたボリュームたっぷりのゲームだとか、携帯ゲーム機は子どもの市場だとか、そういう「常識」もまた崩れています。

まとめ

グーグル(対マイクロソフト)、アップル(対ソニー)、任天堂(対マーケットの常識)という3つの例を出しましたが、もちろん他の事例をあげることもできるでしょう。例えば、新興ネット企業のいくつかはこうした特長をもっています。すなわち
    ・小さいアプリ
    ・シンプルなインターフェース
    ・生活密着
    ・短いリリーススパン
他にも有意の特長はあるのですが、やや各論に入り込みすぎてしまうので、それはまたいずれ機会があれば。

Posted by amanoudume at 2005年09月10日 17:50 個別リンク
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読んで唸った
Excerpt: 毎回、ゲーム系の事などで独自の考察文を発表しているブログ『発熱地帯』さん。 読む...
Weblog: テキストダブ〜ン
Tracked: 2005年09月11日 11:16

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