メディアワークス、DS電撃文庫 『アリソン』を発表
ブラヴォォー!!
ライトノベル市場で人気の高い時雨沢恵一&黒星紅白のコンビが手がける『アリソン』がついにインタラクティブな電子書籍に。DS電撃「文庫」という名称が「アリソン1発ではありませんよ。これから電子本を出していきますよ」といっている気がして、興味をそそられます。
税込3360円とお手頃感のある値段も好感。ライトノベルが500〜600円、ビジュアルブックが約1400円、ハードカバーが1200〜1600円、ドラマCDが約3150円という価格帯なので、ファン向けのアイテムとして違和感はありません。
DSではタッチペンを活かしたアドベンチャーゲームが多く、『逆転裁判』『探偵・癸生川凌介 仮面幻想殺人事件』など、ネットで評判の良い作品も集まっています。一方、ノベルゲームはPSPの方が多いというのが現状です。古いDSは画面が暗いため、テキスト中心のゲームは若干つらいですし、大容量なPSPの方が素直に移植しやすいのでしょう。例えば、チュンソフトもサウンドノベルをPSP向けに発売しようとしています。
しかしDS Liteは画面が明るくなりましたから、文字を読みやすいですし、イラストも素直に色が映ります。またLiteの方が従来機にくらべて、本のようにして持ちやすいデザインです。PSPのように起動まで時間がかかる事もありませんし、普通のソフトなら本体を閉じればレジュームが効くので、気軽に中断と再開ができます。ノベルゲームを非常に出しやすくなったと言えます。
小説のメディアミックスというと、コミック、アニメ、ゲームが挙げられますが、実はライトノベルのゲーム化はあんまりうまくいってません。価格が高くて、ファン向けのアイテムとして手を出しにくいこと、ぬいぐるみやフィギュア等の実物系コレクターアイテムと比べてコレクター魂をくすぐりにくいこと、しかし一番の問題は買う前からクソゲーだと思われていることでしょう。
そういう悪いイメージを払拭していけるかという点も、注目していきたいですね。
携帯版の成長で電子書籍は45億円市場に
ここ数年、電子書籍のマーケットが急速に拡大しています。ケータイに慣れた若い年代を中心に、携帯電話で本を読む人は増えていますし、定額制の導入で小説やコミックを購入する人が増えたためです。ケータイ小説の新人賞も増え、一定の盛り上がりをもっています。
また、出版界の電子書籍の売上には含まれていないでしょうが、DSで大成功をおさめたダブルミリオンソフト『脳トレ』『もっと脳トレ』も、川島教授の『脳ドリル』の電子書籍化、と解釈できます。遊ぶ時のDSのもち方はまさに「本」そのものです。また『楽引辞典』や『指さし手帳』は、まさに本をそのまま電子化したものです。
PS1→PS2ときて、ゲームは「映画」のように進化していくものだと思われていました。しかしDSの登場で「本」のように進化していく道筋が切り拓かれつつあります。手頃な値段、興味をひくテーマ、実用性、手軽さ、身近さ、扱いやすさ。「本」の優れた長所とDSの大成功ソフトの長所は一致しています。また長い期間をかけて売れる傾向や、パッケージの重要性の高まり、口コミ型マーケットの形成など、「本」の売り方を参考にできる部分が大いにあります。(参考:ゲームソフトも本の売り方を見習ってもいい)
ゲーム機の世界もいよいよダウンロード販売が当たり前になるため、ますます「本」のマーケットに近づいていきます。ダウンロード販売の可能性は主に3つです。
1.エミュレータ技術によって、過去のソフトの再販売がしやすくなる。
(ゲームソフトのロングテール販売)
2.追加アイテムや追加エピソードなど、パッケージの寿命を伸ばしやすい。
(発売日前後に集中する短期型販売戦略からの脱却)
3.在庫リスクとメディアコストが無いため、低価格で多様性のあるコンテンツを提供できる。
(企画の小回り、作家性を発揮しやすい市場。プロとアマの境界の曖昧化)
特に3番において、インタラクティブな電子書籍というのは、有力なジャンルになり得ます。過去の資産が豊富にあり、インタラクティブ性を付加した場合のメリットがわかりやすく、比較的低コストで作れるからです。ノベルゲームは昔からフリーのゲームエンジンが存在しましたし、それによって同人ゲーム市場が活性化してきました。図鑑や事典も、ある程度フォーマットを決めて1度エンジンを作れば、スキャニングやデータのコンバートで通常のゲームよりもはるかに低コストで制作可能なはずです(多少の調整は必要でしょうが)。
電子書籍を携帯ゲーム機で展開するのはなかなか理にかなっています。『脳トレ』効果で中高年の人も手にとっていますから、一般の書籍を持ってくるなら圧倒的にDSが正しい選択でしょう。実際、選択を誤ったゼンリンの地図帳や、『実録鬼嫁日記』は発売したことさえ認識されないまま、消えていきました。彼らは大人がPSPを買っていると勘違いしてしまったのでしょう。きっと脳内でしかマーケティングしてないんですね。
DSは中高年、ファミコン世代、大人の女性、子供に強いのですが、中学生・高校生には弱いです。一方、PSPは中学生・高校生の「背伸びアイテム」として売れていて、この層が『モンスターハンター』を支えていると言われています。SFCに対するPC-Engineやメガドライブのようなものです。本当の大人ではなく、早く大人になりたい人のためのゲーム機です。
そのため、ライトノベルに関しては、DSとPSPのどちらで出すかは微妙なところです。というのは、ライトノベルの読者層は中高生とかつてのライトノベル読者(20代後半〜30代)なのですが、やはり数としては中高生が多いからです。ただ、中高生の資金力を考えると、そこまで本以外のグッズを買えるのかという疑問もあります。PSPのソフト販売が低調なのも、中高生の資金力に余裕が無いせいでしょう(彼らはまず、携帯電話にお金を使わなければなりません)。
電子書籍がDSに向いているといっても、DSのTouch Generations!が成功したのは単に電子化しただけでなく、任天堂のもつゲーム作りのノウハウを活かし、扱いやすく、楽しいものに仕上げたからだ、という事は忘れてはいけないでしょう。ゲーム機で動く「本」は昔からありました。PS1やPS2でも、図鑑、料理本、『家庭の医学』などは発売されています。しかしどれも売れていません。
楽しさはゲーム開発のノウハウの話になり、長くなるので今回は触れません(1月後半〜2月前半の過去ログをオススメしておきます)。機能性にしぼってまとめます。
1) 電子化の最大のメリットは「検索性」と「繰り返し性」。
ずっと下がって映像や音楽との併用。
2) そのうち「検索性」はキーボードが標準のPCに勝てない。
また調べるのにディスクを入れて起動なんて、とても待てない。
そこが改善しないと、辞書や事典はPCに勝てない。
3)「ドリル」は性質上「繰り返し」が求められるので、電子化に向いている。