最近の記事
カテゴリー
過去ログ
検索


このサイトについて
このサイトは、ゲーム開発、およびゲーム周辺の周辺技術や動向について日々考察し、毒舌的に物を書き続けることを通して、「ゲームの未来形」という大テーマに対して、何か考えを深められるといいなあ・・・・・・というサイトです。

2006年03月26日

ゲームソフトも本の売り方を見習ってもいい

ゲームソフトのダウンロード販売が当たり前になりつつある

ゲームソフトのダウンロード販売が次世代の販売チャンネルとして、急速に台頭しつつあります。

    ・SCEはPS3でHDDを前提にした開発を要請している。
    ・SCEはPSPのアプリのメモステ起動を容認する。
    ・マイクロソフトの携帯ゲーム機はHDDを搭載し、ダウンロード販売を
     前提にした物になる、と予想されている。

    ・欧米ではカジュアルゲーム市場が成長している。
    ・マイクロソフトはカジュアルゲーム市場の取り込みに積極的。
    ・任天堂のバーチャルコンソールにセガとハドソンが参入。

各プラットフォームホルダーの取り組みによって、ようやくメディアレスな時代が現実のものになりつつあります。10年前の予想(期待)に比べればかなり遅れたものの、それでも1つの「夢」が具現化しようとしています。今までは良いアイデアがあっても、「数千円の価値を作らなければならない」ために、数十個のゲームを寄せ集めたり、無駄なストーリーをつけたりと、本来の遊び以外の蛇足部分をたくさん作る羽目になり、本来作り手が楽しんでもらいたい部分以外を作るのに、ものすごく労力を使わなければいけませんでした。

健全なクリエイティブとライトウェイトな開発、低リスクな販売チャンネルが結びつき、ゲーム業界にとって大きな転換が起こることを強く期待します。フリーゲーム、同人ゲームでは、部分的には作家の名前でソフトが遊ばれ、買われています。ゲーム機向けゲームの世界でも、同じように作家の名前でソフトが買われる動きが広がったらいいな、と思います。


ゲームソフトの販売構造が変わりつつある

2005年、ゲームソフトの販売構造は大きく変わりました。DSのTouch Generations!の成功にともない、非常に長期間売れるソフトが市場に現れています。3月13日〜3月19日の週間販売データを見てみましょう。DSの『おいでよ どうぶつの森』、『脳を鍛える大人のDSトレーニング』といったソフトがいまだに上位にきています。『やわらかあたま塾』、『だれでもアソビ大全』も根強い。またDSの本体同時発売ソフトだった『さわるメイドインワリオ』『スーパーマリオ64DS』がいまだに50位前後に位置しつづけています。

こうした長期販売傾向はなにも任天堂1社に限りません。バンダイの『たまごっちのプチプチおみせっち』は100万本を越えて、なお根強く売れていますし、ナムコの『右脳の達人 爽解!まちがいミュージアム』もあっさり圏外に消えていった『クイズ野郎』とは異なり、粘り強く売れています。(『クイズ野郎』は論外な出来でしたが、『まちがいミュージアム』はなかなか良い出来で、かなり惜しい。あと一歩練りこめばさらに高い売上水準に届いたろうに)

長期販売は、継続的なテレビCMの効果もありますが、それだけで説明できるものではありません。実際、DSの成功タイトルは電車の吊り広告、ソフトを体験できるスポットの増加、紀伊国屋を始めとする書店でのソフト販売、山手線の電車内の広報など、テレビCM以外の告知チャンネルが目立っています(例外は松嶋奈々子のCMぐらい)。


ソフトのパッケージの役割が変わりつつある

長期間売れているソフトの特徴の1つは、本を意識したパッケージデザインになっている点です。DSの『アナザーコード』で「さわれる推理小説が誕生!」という本の帯を模したパッケージが始まり、その後Touch Generations!の『脳を鍛える大人のDSトレーニング』『楽引辞典』『やわらかあたま塾』はすべて、同じように本の帯を模したパッケージになっています。また、ソフトの中に折込チラシが同封され、同じ客層をターゲットにした作品を紹介しています。これも、本の世界と似ています。例えば、文庫本を買うと、必ず折込チラシが入っています。

近年のゲームソフトのパッケージ、特にPS2のパッケージは良くも悪くもお高く止まっているものが増えていました。映画の看板のような劇画調というか、作品の格調高さや重厚な雰囲気を伝えるためのものになっていました。本の帯のようなわかりやすさは、年々なくなっていました。一方、本の世界では、重厚な雰囲気のハードカバーにも帯がついて、わかりやすいコピーが書かれています。

それもそのはず、当時のゲーム業界ではゲームソフトの初週販売依存度が高く、ゲームソフトは発売1〜2週間で勝負するものという認識が当たり前だったからです。発売直前に最大限に盛り上がるように広報計画を練ります。言葉は悪いですが、ある意味、売り逃げ型のビジネスモデルといえます。

ゲームソフトはある時期まで、ゲーム雑誌のレビューや特集記事、テレビCMによってソフトを売っていく世界でした。そのため、パッケージはゲームの世界観や雰囲気を表すことが第一とされ、裏面の説明にしてもゴチャゴチャ情報を詰め込むのが当たり前でした。その結果、ゲームショップの棚を見ても、「どれも同じに見える」「ユーザーがタイトルの名前を知っているのが前提」でした。本とは真逆の世界です。

しかし本のように比較的長期間売っていく場合には、店頭での販売が重要になります。本の世界ではよほどのことが無い限り、なかなかテレビCMなんて打ちません。基本的には本屋の店頭で勝負する世界です。パッケージ、帯、折込冊子、棚の並べ方、書店員のポップ、・・・・。こうした事の積み上げが売上につながります。長期販売を狙うソフトはどれも、本の売り方から非常に多くのことが学べるはずです。


ゲームメディアの役割も変わりつつある

2005年に起きたゲームメディアにとっての最大の衝撃はなんでしょうか?
それは、ミリオンを軽く突破し、現在は200万本を目前に控えた『脳を鍛える大人のDSトレーニング』がファミ通のクロスレビューを受けていないという事実です。ライトユーザー、ゲーマー、ゲーム業界人の間で、最も話題になったソフトを、ファミ通はカバーできなかったわけです。

ここ数年、ネット上ではファミ通のクロスレビューの威信は地に落ちていました。大手ソフトメーカーとクロスレビューの点数が癒着しているという疑念は定期的に話題になりますし、クロスレビューを参考にしている人は減っているといわれています。また多数発売されるiアプリのゲームをカバーしきれません。大手ソフトメーカーのiアプリは掲載されるものの、ダウンロード件数の多いフリーゲームは無視されています。そしてトドメとばかりに、ファミ通のクロスレビューを受けていないソフトがダブルミリオンに達しようとしています。

もはやファミ通のクロスレビューは実売にはほとんど影響せず、ゲーム開発者のプライドを満足させることと、2chあたりの煽り合いの材料にすぎないことが証明されてしまいました。もしも大手ソフトメーカーがファミ通へのクロスレビュー提出をやめてしまったとして、はたしてそれで売上が落ちるんでしょうかね? じつは全然落ちないかもしれませんし、かえっておかしな悪評が立ちにくくなる分、売上が上がるかもしれませんよ。

これも本の世界に近い現象。専門誌を買ってまで本を選ぼうとする人は希少ですし、雑誌のクロスレビューで本を買う人もまずいません。


そろそろ賞というものを見直したほうがいい

数年前にも1度書いたことですが、ゲーム業界の「賞」はユーザーにとってあまりに無意味すぎます。本の世界ではまず新人賞があって、作家がデビューするための入口の役割を果たしていますし、本好きにとって受賞作品は新しい作家と出会う良い機会になっています。また、芥川賞・直木賞は本の売上にダイレクトに結びつきますし、受賞作家は新聞連載を始め、仕事の機会が多くやってきます。賞というものが作家のステップアップとして機能しているわけです。

例えば、直木賞を受賞すると、その作家の作品はすぐに帯が差しかわり、「直木賞受賞作品!」であることが大々的にアピールされます。ゲーム業界ではこういう事は起こりません。ゲーム雑誌の片隅や、ゲーム系サイトの1ページを飾るだけで、ゲーム業界人のゲーム業界人によるゲーム業界人のための賞でしかありません。完全に「内輪受け」の世界です。

ボクはこういう賞なら不要だと思います。そんなものはただの文化気どりです。賞というものはクリエイターにとって「内輪受けの栄誉」ではなく、着実なステップアップにつながってほしい。そもそも賞というものがどれぐらいあるかというと、「東京ゲームショウのなんちゃら賞」「文化庁マルチメディアグランプリ賞」「Game Developers Choice Award」と、あとは海外のナントカ賞(ゲーム業界の自称アカデミー賞らしいよ)、プラットフォームホルダーのほにゃららプライズ。そんなところかな?

率直にいって、こういう「賞」はユーザーにとって、あまりにも無関係すぎます。
例えば、ついこの間「Game Developers Choice Awards」が発表され、『ワンダと巨像』が5部門で賞を獲得したほか、『nintendogs』がTechnology部門で受賞しています。他にも『みんな大好き塊魂』『おいでよ どうぶつの森』『バイオハザード4』など、日本勢の作品が何本もノミネートされています。

この賞は世界中のゲーム開発者が選んだ・・・・と言いたいところですが、それはさすがにウソで、IGDA(国際ゲーム開発者協会)メンバーのゲーム開発者が投票で選んだものです。日本ではIGDA加盟者がまだまだ少ないので、基本的には欧米のゲーム開発者が選んだ賞といえるでしょう。ボクも選んだ覚えは無いし、実際、日本だったらこうはならないだろうな、という結果になっています。
海外で評価されているという点では、意味があります。しかしそれがユーザーにとって、どんな関係があるのでしょうか? 興味を示している人がどれだけいるんでしょうか?

ボクはぜひとも、SCEには『ワンダと巨像』をもう一度テコ入れしてほしい。賞をきっかけに販売をテコ入れするのは、確かにゲーム業界では通常ありえません。しかし本の世界では当たり前のことです。今いろいろなことが変わりつつあるゲームの世界において、新しい一歩を踏み出してほしいですね。

そういえば、先日D3パブリッシャーの「SIMPLEシリーズ Awards 2006」が発表されましたが、いわゆる販売ランキングにはなかなか浮上してこないものの、息長く売れているソフトにスポットライトが当たる良い機会でした。しかしこの記事を読む人たちは、SIMPLEシリーズの客層と必ずしも一致しているわけではありません。賞を利用して、店頭においてさらなる販促を行ってもいいかもしれません。

とはいえ、たぶんそういうことをしても、まず売れないでしょう。そんなもんです。しかし何ごとも最初はそんなもんです。本の世界では『このミス』がかなり力を持っていますが、あれも最初からそうだったわけではありません。実際の販売につながったから、力をつけたんです。最近では全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」というものが出てきて、「本屋大賞」を獲った作品が売れたので、従来の伝統的な小説賞がビビったという話があります。本の世界では、いまだに賞を生かす、育てるということが機能しています。

賞というものは、制作者や業界人の内輪受けのためにあるものではなく、表面だけ他のメディアをなぞってもしょうがない。ユーザーに関心を持ってもらうことで大きく育っていきます。ゲーム会社ならびにメディア、流通が努力して初めて、生きた賞に育ちますし、結果的にそれが新しいチャンスを生み出すのです。ボクはなにも文化的な価値を訴えているわけではありません。そういう積み上げが今後の長期販売マーケットや、ダウンロード販売の時代に意味を持ってくる、と考えているのです。種まきですよ、種まき。しかしなかなか理解されないかもしれませんね・・・・。

Posted by amanoudume at 2006年03月26日 20:10 個別リンク
TrackBack URL for this entry:
http://amanoudume.s41.xrea.com/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/201

Listed below are links to weblogs that reference 'ゲームソフトも本の売り方を見習ってもいい' from 発熱地帯.
Valve、BioWare、MSなど業界の先駆者たちが語るデジタル流通の今後
Excerpt: Valve、BioWare、MSなど業界の先駆者たちが語るデジタル流通の今後【GAME Watch】 なんか変な論争。 アメリカの広大な地域での流...
Weblog: Battle Online
Tracked: 2006年03月27日 00:18
ホーム/2006-03-28
Excerpt: おはようございます。本日は曇りのち雨とのことで、公園の桜が散ってしまわないか心配です。また、今朝体重を量ったら400グラム理由もなく落ちていたので、ちょっ...
Weblog: とんかつ3号 隠れ亭
Tracked: 2006年03月28日 08:09

コメント

「作り手は、批判的意見にも真摯に耳を傾けなければならない」というようなことを書いておられるようですが、もしそうなら、

>コメントを投稿しても、管理人が承認するまでは表示されません。

ってのは、自己矛盾じゃないですか?

ん?
これって、1つ前のエントリーへのコメントですよね?
コメントするエントリーを間違えてませんか?

質問への答えは簡単です。
ボクが言っているのは「プロ」のクリエイターについてです。
アマチュアが他人の意見を聞かないのは普通ですし、基本的に
勝手にしたらいいと思っています。ボクはブログで食べている
人間ではありませんから、好きにやってます。

これはボクの考え方なんですが、自己満足を追求したかったら
アマでやればいいし、市場と折り合えるならプロでやればいいんです。

そもそもコメント投稿への対応は、海外からのスパムコメントへの
対策の意味がありますし、偽のアドレスを使う事がなければ内容は
すべて読んでいます。つまりすべての意見は『聞いて』います。


それと、誤読があるかもしれないので、補足しておきますが、silviaさんの
言う「真摯に」とはどういう意味でしょうか?

>プロのクリエイターはどれだけ口汚い罵倒であっても、批判を受け
>止めるのが当たり前です。受け止めたうえで、その意見を反映
>させるかどうかは別ですが

ボクが「受け止める」と書いているのは、感想は聞くけれども、
それで次にどうするか『判断』するのは作り手の問題だ、という
意図です。

意見を積極的に言う人は結局の所、ユーザーのごく一部ですから、
無視はしませんが、そういう声だけに流されても仕方ありません。
バランスを判断しなければいけないでしょう。例えば、ボクは
ネット上の掲示板等だけで、すべての評価が決まるとは考えて
いません。ユーザーの反応を見るための手段の1つとして捉えて
います。色々な手段・経路を通して、多様なユーザーの反応を
知りたいですね。

最終的に、あくまで『判断』は作り手がするものですし、そうで
なければただの無責任です。受け止めると言いなりになるは
別問題ですね。
まぁボクがいってるのは単純な話で、無視したり、勝手にハートが
ブロークンするのは論外ですよ、と。どんな感想が投げられても、
傷ついたり、怒ってもしょうがないでしょ、と言ってるだけで。

ところで、今後のやり取りは適切なエントリーのほうへ投稿して
いただけませんか?

ゲーム業界自体が初週偏重になっているため、
結局、情報を追いつづけられるヘビーユーザーか、TVCMでバンバン見かけるタイトルを買いに来るユーザー以外を取りこぼしていますよね。

それ以前に、市場規模に対してソフトが多過ぎるというのも問題ですが、
それはラノベにも言えますから、売り方としては見習えるところがあるというのは同意です。

>それ以前に、市場規模に対してソフトが多過ぎるというのも問題ですが、

より正確には、価格の高いソフトが多すぎるという事かな、と思います。
多様性はさほど無いので。

TVゲーム機はやはり、ゲームを遊ぶメインプラットフォームですから、
そこにおいて数千円の価格の束縛から解放される事が次の変化に
つながると思います。とはいえ、そういう時代が来る事が自明でも、
直前まで準備をしない会社が多そうですけどね・・・・。

この業界、真っ先に変化しなければならない、言い方は悪いが
規模の小さな所でも、案外、旧態依然とした方法論を続けていたり
するようですからね・・・・。

一方で、一部には、機動力の高い、目端の利く会社もありますけども。

>より正確には、価格の高いソフトが多すぎるという事かな、と思います。
多様性はさほど無いので。

う〜ん、値段については3/29のエントリ向けなんで、純粋に数が多過ぎるという事を述べたいです。

月(年)に買える本数に対して一体何本発売されるのかと。
で、有力タイトルの出る時期は大体決まってる(苦笑)

ゲーム屋に行って同時に何本も買うというユーザーはそれほど多くないでしょうから、結局ソフト同士の潰し合いになるんじゃないかと。

出版業界では悪評高い返本制度もゲーム業界においてはむしろやった方がいいんじゃないかなぁと思います。
そうすれば乱造も減るんじゃないかな?って気になってくるんですよね。

この点に関してはボクはBAN/さんとは180度逆の見解です。
今のゲームは少なすぎます。

> 月(年)に買える本数に対して一体何本発売されるのかと。

そもそも本にしたって、とても読みきれないぐらい出ているわけで、
それで良いと思います。まぁ現在のゲームは多様性も個性も
無さ過ぎる割に多いという言い方はできるかもしれませんが。

数百円〜2500円ぐらいの価格帯で、今の数倍のソフトが出てくるのが
ボクの良いと考える状況ですね。

コメントを投稿

(コメントを投稿しても、管理人が承認するまでは表示されません。すぐに反映されない、最悪24時間以上かかる事もあります。ご了承ください。)