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このサイトは、ゲーム開発、およびゲーム周辺の周辺技術や動向について日々考察し、毒舌的に物を書き続けることを通して、「ゲームの未来形」という大テーマに対して、何か考えを深められるといいなあ・・・・・・というサイトです。

2005年04月06日

傍流の系譜

雑談レベルにおいて、最近よく話題にしている話題をBLOGでも書いてみます。企業を救うヒットは傍流文化から出てくる、ということを最近特に感じます。
「プロジェクトX」でもそうなんですが、割と一般論かもしれませんね。
企業が苦しくなると、確実に売上が見込めるメインストリームの開発部隊をより高回転させようとし、自転車操業の状態に陥ります。しかしそもそも自転車操業
的になったのは売上が下がってきたからなので、ますます売上が減っていきます。開発に余裕がなくなることでクオリティが低下し、リリーススパンが短くなる
ことでユーザーの飽きが早くなり、さらにさらに売上が低下します。
しかし企業の側はより短納期で開発し、しかも売上の安定化を目指すため、結果として商品のお得感を増大させようとします。値下げや、ボリュームのさらなる
肥大化といった選択をするわけです。ボリュームを肥大化させるために、さらに多くの開発人員を投入することもあるでしょう。開発資源や経営資源を悪い意味
で集中させた結果、利益は落ち、ますます儲からなくなります。
     メインストリームの部隊が自転車操業的になる
   → でもそもそも自転車操業的になったのは売上が下がってきた
     からなのでジリ貧になる
   → 経営資源を集中したためますます儲からなくなる
   → ……以下ループ
こういう状態をボクは「敗北螺旋」と呼んでいます。一度こういう状態に陥ると、単純にメインストリームをいくら頑張っても、敗北螺旋を脱することができ
ず、どれだけ体力のある企業であっても、長期的には傾き、滅んでいきます。こういう時に企業を救うのは、メインストリームの部隊とは異なる、会社側の期待
度も低く、予算や人員の割当ても少ない傍流の部隊。
そういう傍流の部隊をふだんから飼っておけるかどうかが企業余力というもので、資金力がある企業が一般にしぶといのは、単純に資金があるからよりも、結果
論的に企業余力として、傍流の部隊をいくつも抱えておけるからだったりします。
体質的、無意識的に傍流の部隊をもっておかなくても、将来的にビジネスがジリ貧化することが見えてきたなら、機動力重視の新規ビジネス案件をいくつも立ち
上げて博打を打つ、という戦略もありでしょう。博打を打つ資金もない状態になると、緩慢な死を迎えるしかなくなります。

ゲーム業界に見る傍流文化の主流化
傍流部隊だった部署が思わぬヒットを出して、一気に未来のビジネス
を広げた例の1つがセガの「ムシキング」でしょう。「ムシキング」を開発したのは、セガのコンシューマー部隊でもなければ、純然たるアーケード部隊でもな
い、セガの未来研究開発部でした(ジョイポリスなどのアトラクション系を開発)。
newsmile 「甲虫王者ムシキング開発プロデューサー 植村比呂志」インタビュー
> SEGAがコンシューマー(家庭用ゲーム機)の開発に全精力を投入しようという
> 動きがあって、我々は社内で職を失ったんです。開発として何ができるかを考えたら、
> CG水族館と昆虫図鑑のデータと動かすノウハウしかなかったんです。
> うちの会社はよく「発展的解散」という名のもとに部署ごとなくなるんですよ。僕たちも
> 他の部署に吸収される事が決まっていたんです。我々の部署は沈没しかかっていて、
> その頃のチームネームは「脱出艇ムシキング」だったんですよ。「我々はムシキングを
> 作って脱出するんだ!」と。ノアの箱船でした。うまくいかなかったら海に沈むんだと
> 毎日言ってましたね。

「ムシキング」が特徴的なのは、いわゆる「じゃんけんメダルゲーム」の発展形といえる、シンプルなルール性です。高難易度なゲームを作りがちなセガにあって、その真逆にあるような一般向け、子供向けの遊びをつくる文化がひそかに存在したわけです。

未来研究開発部は、2000年の時点で「Fish Life」という遊べるインテリア
タッチパネルによるメディアアートを実現していました。その後、「マクドナルドのタッチであそぼ!」を手がけ、その中の昆虫図鑑の部分が「ムシキング」の
原型になったわけで、脈々と受け継がれてきた非ゲーム的な文化がついに大ヒットにつながった経緯は興味深いです。(参考:Creators Note#13 植村比呂志

未来研究開発部の他の商品としては、「セガだからできた、楽しい"癒し" リラクゼーションマシン」なんてものもあります。また、一時期話題になったCGツール「アニマニウム」
ここが開発したものです。調べてみると面白い物がいくつも掘り起こせそうです。
傍流文化の他の例をあげると、そうですね、任天堂の「メイドインワリオ」もそういう括り方ができそうです。DSの発売当初、「マリオとワリオが並ぶ時代が
きたのかー(しみじみ)」という感想がいくつかのBLOGで散見されました。N64時代や、GCの初期の頃には想像しにくかった状況です。
GCの発売2年目、任天堂は「マリオ」「ゼルダ」の2枚看板を押し立て、劣勢を挽回しようとしました。ところが両ソフトとも、予想を大きく下回る結果に終
わり、その年の年末商戦にGCは大量の不良在庫が発生し、一時期は生産停止という事態にまでおちいりました。その時点で現世代機の世界的な勢力図は確定
し、任天堂は北米第2位の座をマイクロソフトに明け渡し、急速にブランド力を失墜させていきました。まさしくGCはメインストリームのジリ貧化を体現し、
「メイドインワリオ」以後の任天堂の携帯ゲームの戦略は傍流文化の台頭を体現しています。かつてのメインストリームが行き詰まり、傍流文化が主流化するわ
かりやすい実例となりました。
日本のゲーム業界の地盤沈下が指摘される昨今、メインストリームのジリ貧化はあちこちで起きています。カプコン、ナムコ、コナミ、・・・・。ここにきて、
各社の傍流文化が実を結ぶのかどうかが試されています。

補足: その他の傍流→主流
ちなみにコーエーの「真・三國無双」チームも、シミュレーションのイメー
ジの強かったコーエーにおけるアクションゲーム開発ラインとして、当初はあまり期待されていませんでした。N64「ウィンバック」など、マイナーハードの
ラインナップを手がけていました。非主力部隊として数年働いた末に、「真・三國無双」を生み、あの異例の口コミヒットにつながりました。
また、「MGS」で知られる小島秀夫氏も、かつて「傍流から主流になった」例です。マイナーハード遍歴ぶりがすさまじいです。MSX→PC-88→PC
Engine(CD-ROM)→3DO→PS(移植)→SS→PS「MGS」。(参考:カミトバレポート「小島秀夫」

そうそう、「ポケモン」にしても傍流部隊の成功例といえますし、任天堂の社長にHAL研出身者の岩田氏が就任した件も、傍流から主流への興味深い実例でしょう。(ほぼ日刊イトイ新聞「社長に学べ! 任天堂社長 岩田聡」
ファミコン、スーファミと天下を取って、企業体力があり余っていた頃に蒔いた種が、据置ゲーム機のシェアを失った後の迷走期の任天堂を支えたわけで、種まきの重要性がわかりやすく示された例といえます。

Posted by amanoudume at 2005年04月06日 15:18 個別リンク
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Listed below are links to weblogs that reference '傍流の系譜' from 発熱地帯.
ムシキングの成功の理由
Excerpt: こんな記事を見かけました。 傍流の系譜 発熱地帯さんの記事 ムシキング開発者、植村比呂志氏インタビュー ほほう、なるほど。ムシキングの成功は素直に賞賛されるべきものですが、じゃあどうして成功したのか考えてみましょう。 ----- PING: TITLE: 種まきの季節 URL: http://hnami.jugem.cc/?eid=167 IP: 210.172.160.42 BLOG NAME: 一日一喝 DATE: 04/08/2005 01:07:37 AM  ある年齢を超えると、自分のストライクゾーンというか、横幅が決まってきますね。これは好きでこれはダメ、みたいな。深さは決まらないんだけど幅は決 まってしまって、自分が自分でなくなろうとしても無駄。   「発熱地帯」の「傍流の系譜」に面白いことが書いてあり...
Weblog: tablog upper universe
Tracked: 2005年04月07日 17:17
持つ者、持たざる者
Excerpt: 発熱地帯さんからリンクを張っていただいたところ、すごいアクセス数に・・・。ビックリです。アクセス数を記録したくなって、慌てて設置しました。まあバ ブルですね(笑)さて、これからゲーム業界も次世代機の登場などで、5年に1度の下克上の時代になります。PS時代には
Weblog: ゲームのマボロシ
Tracked: 2005年05月24日 16:40

コメント

続編を乱発したゲーム業界がジリ貧化している中、次に主流化する傍流とは何なのでしょうね?
チュンソフトは20周年記念の新作3本を立ち上げましたが、あれは遅きに失したのか・・・。

傍流の必要性は、切込隊長がソニーの件に関しても主張していますね。
http://kiri.jblog.org/archives/001351.html
> 目先の解決策はひとつしかない。博打を打つ回数を増やすことだ。大規模な投資案件や合弁ではなく、少人数、少ないコストで大量のサービスを本業に関連
して立ち上げることである。
ただ、実際は難しいんでしょうね。この続きが、こうですし。
>ただ、実行に移せないのは意志決定者が、己が行ってきたいままでの意思決定が間違っていることを認めなければならないという面子の問題にのみ拘泥し、抜
き差しならないところまで行って初めて問題を認めるために損害が大きくなっているのだ。

主流よりも本流と書いた方が適切かと思います

初めてコメントさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
今回のエントリー、「傍流から主流へ」の例には、『バイオハザード』も加わりそうですね。
当時、格闘ゲームのトップメーカーだったカプコンにおいて、『バイオハザード』の1作目は「それほど期待されていなかった」というのを、マンガで読んだ気
がします。
(記憶違いであれば、申し訳ありません。)

>バイオはそして、主流が自転車操業の結果、ダメになってしまう例にもなったな。
そうですね。その後のカプコンは「主流」を、格闘ゲームから、3Dアクションアドベンチャー(という括りでいいでしょうか?)に切り替えました。
ただ、似たようなジャンルの作品に頼りすぎてしまった・・・。
もちろん、『逆転裁判』や『ビューティフルジョー』等、新しい「傍流」にも挑戦しているのですが、次の「主流」を生み出すまでには至っていませんよ
ね・・・。

「MGS」は主流に「なった」というよりは、
まだ傍流(売れていない)の段階で
会社が経営資源を集中して、
経営戦略的に主流に「仕立て上げた」と
いう方が正確かも。
今はもう、こういう手法は使えないかも
知れませんが…。

傍流文化が次の主流という点ではコナミもその典型
ですね。
つぶれるつぶれる言われながらも、規模が大きいから
傍流部隊がそのたびに会社を救うヒットを生み出す
体質です。
狙ってやっているのではなく、天然だと思いますが。
パワプロ、ときメモ、ビートマニアと、最初はマイナー
ハード向けだったり、非主流開発部隊が開発した
ソフトが、後の主流になった例は枚挙に暇がない
はずです。

>最初から主力商品として生まれてくる商品なんてないですよ。
確かに、仰る通りなんですよね。
「新しい驚き」や「新しい面白さ」というのは、他の人がやっていない事を、自分達で作り出すしかない。
そして、そうやって作り出した「新しい驚き」や「新しい面白さ」も、二度三度と繰り返してしまえば、絵や音・システムは改良できても、「新鮮さ」は失われ
てしまう・・・。
改良することで、より深みのあるいい作品を作り出すことも大事ですが、次の「新しい驚き」や「新しい面白さ」を生み出すためには、常に挑戦し続ける姿勢が
必要なんですよね・・・。

>パワプロ、ときメモ、ビートマニアと、最初はマイナー
>ハード向けだったり、非主流開発部隊が開発した
>ソフトが、後の主流になった例は枚挙に暇がない
>はずです。
確かにそうで、ウイイレに至っては先行していた
グループ会社の他ラインを蹴散らしてしまいました。
でも、「MGS」だけ異質なのは、分社化の際に、
「スクウェアに対抗する主流大作を作る」
「人気クリエイターを作り出す」というミッションが
売れる前に親会社から先に与えられていて、
グループ内の経営資源を優先的に与えられ、
何かにつけて雑誌露出を繰り返し、大作感・
人気クリエイター感を醸し出すイメージ戦略を
採った点なのです。
ウイイレ・パワプロの人達と異なり、グループ内で
小島氏の毀誉褒貶が激しかったり、
「MGS」発売直後の雑誌インタビューで
「何故自分が選ばれたのか」的な明らかに
グループ内向けの発言が頻出していたのは、
出だしにそういう作為的な経緯があったためです。

> 問題は開発費が高騰した影響か、多くの会社が
> 自転車操業の方に資源を集中しすぎていること。
問題はこれがゲーム会社単体ではなく、日本のゲーム業界全体で見た時にも言えることですね…。
以前は自転車操業に陥った会社がフェードアウトしていくのを尻目に、新しい会社が新しい市場(潜在ニーズ)を開拓していく循環が起こっていましたけど、最
近はその流れすら希薄になってきました。
任天堂とかナムコとかコーエーとかは、そんな中でも従来の枠を破ろうと頑張っているように見えます。
ただそうした従来の大手以外の新しい勢力というのは、最近はまずはディベロッパーとして生まれることが増えてきたので、パブリッシャーの意向に左右されや
すくなったのがマイナス要因かもしれないです。(まず頭の固いパブリッシャーを納得させないといけない)

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