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2006年12月08日

フィギュアスケート小説『銀盤カレイドスコープ』完結

銀盤カレイドスコープ 8 コズミック・プログラム:Big time again!

銀盤カレイドスコープ 9 シンデレラ・プログラム:Say it ain’t so

女子フィギュアスケートを題材にした『銀盤カレイドスコープ』がついに完結。
デビュー作(1巻と2巻)の時点では16歳、オリンピック出場の座をかけて、日本のライバルたちと争っている未熟な1人のスケーターでした。才能こそあるものの、本番が苦手で、人形のように表情が硬く、一言余計な性格が災いして、マスコミを敵に回しがち。敵を作りやすい桜野タズサはとある出会いをきっかけに、さらに爆弾を抱え込んでしまうのですが、やがてそれが良いきっかけに・・・・。

コメディ調の少女小説のように見えて、じつはスポ根小説。スケートの演技シーンは圧倒的な躍動感で描かれていて、作者のスケートへの強い愛情がうかがえます。フィギュアに詳しくなくても、最低限の解説はありますし、生き生きとした描写で、スケーター1人1人の演技の様子が目に浮かぶようです。

それから4年、今や世界的なスケーターになったタズサはついに、フィギュア界に君臨する不敗の天才スケーター、女帝リア・ガーネット・ジュイティエフに宣戦布告します。桜野タズサを天才とするなら、リアは神に愛でられし天才。タズサを始めとする、同時代の世界的スケーターは誰もリアに勝てません。

言ってしまえば、『修羅の門』における陸奥に挑む海堂晃や片山右京たちの立場であり、『YAWARA』における本阿弥さやかやジュディ、テレシコワたちの立場です。柔の父、猪熊 虎滋郎はかつて本阿弥さやかにこう言いました、凡人が天才に勝つには天才をはるかに上回る努力とそして運が必要なのだ、と。努力だけで勝てるような相手を天才とは言いません。しかし神に愛でられし天才は、その運さえも軽々と超えていきます。

『修羅の門』や『YAWARA』では、主人公は神に愛でられし天才の側でした。しかし『銀盤』7〜9巻における桜野タズサは天才に翻弄される凡人の側です。リアの元コーチ、マイヤ・キーフラの元にいき、一流スケーターが続々とやめていった過酷なトレーニングを続けます。しかし女帝の逆鱗に触れたタズサは、怒れる圧倒的天才によって打ちのめされ、翻弄され、蹂躙されます。

「なんでなのよ……」
 リアが現れただけで、突然何もかもがおかしくなるなんて――
「あり得ない……」
 こんな種類の失望感は初めてだった。
 不眠――ここまで積み上げてきた全てが、こんな理由でオジャンになろうとしている。リンクに乗る前に、決着がつこうとしている。
(略)
「一睡もできなかったわ」
 投げやりな心情、投げやりな口調で事実を告げた。さぞかし呆れ返られるだろうと予期しながら。
「そうですか。それで?」
「……ダメかもしれないわね」
「マイヤッ……」
 必死で背後を顧みた。
 なに? あれはなにっ!? ……声にならない。
「タスザ、落ち着きなさ―」
「――あれはなにっ!?」
去年の夏――
 女帝リアは、私の腕の中であどけない寝顔を晒していた。
 ……それでよかった。それでよかったのだ。
 だって今は。今は……。
 「なんで……」
 なんで、壊しちゃったんだろう。
世界トップクラスのアスリートがリアの本気を前にして、自分を保てない。かつてない重圧と戦いながら、桜野タズサはオリンピックにて、女帝リアとついに対決します。はたして桜野タズサはリアに勝つことができるのか!
 ・・・・いや、しかしまさかこんな展開になるとは。

その先の展開はまさに神がかっているとしか。9巻の物語を締めるにすさわしい、片時も目を離せない展開が続きます。1巻、2巻の時点ではスポ根の装いをもった少女小説でした。しかし3巻以降、少女小説的における王子様的な要素は、周到に排除されていき、タズサを取り巻くアスリートたちを描いたのち、8巻、9巻では幼い頃から勝ち続ける女帝リアと彼女に挑むタズサの姿を描き出します。少女小説から、自分の力で戦うスケーターを描いたアスリート小説に見事に「化け」ました。

Posted by amanoudume at 2006年12月08日 06:15 個別リンク
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