米国において、フェードアウト組のフェードアウトが加速している。
まず筆頭はディズニーのアニメスタジオだ。
WSJ-米ディズニーがアニメ映画の制作中止、制作拠点閉鎖も検討
90年代前半には成功に次ぐ成功を収め、99年にはカリフォルニア州バーバンク、オーランド、パリに総勢2200人のスタッフを擁するまでに成長した。ところがそこから一気に奈落へ。11月にはアニメ部門の人員は880人。オーランドのスタッフも解雇されれば、4年間で71%の人員削減というわけだ。
そして、オーランドスタジオは閉鎖した。一部のスタッフは本社に吸収されるものの、大半は解雇。
ディズニー、アニメスタジオ閉鎖へ◇ロイター何
とも凄まじいリストラぶりだ。現在の米国のアニメ市場は、大ざっぱにいって、Highの3DCGアニメとLowのセルアニメに分けられる。Highの頂点
に立つのはもちろんピクサーだ。ピクサーはまぎれもないプレミアムブランドになった。日本のアニメは(日本のメディアは虚構を作り上げようとしているが)
実際にはLowだ。
ひとたび時代の移行が始まれば、米国ではあっという間に座席を失うことになる。米国はものすごくフェードアウトのスピードが速い。
だから、米国における成功例をを見る場合は、十分な注意が必要なのである。”その時点ではうまくいっているが、すぐにダメになるもの”なのか、”今うまく
いっており、今後もますます成功するもの”なのか、その見極めが重要になる。ただ成功しているというだけでは、見るべき価値などまったくない。
すなわち、今米国のゲーム産業が調子がいいからといって、単純にそれを真似しようではダメなのである。単純に「成功例から学ぼう!」などといっている人間
はまったく米国を理解していない。そういう人間はセンスが悪いから、何をいっても説得力がない。
何度も書いているから、今後の論旨はある程度読めるかもしれないw つまりアニメに起きたこの変化が今後、ゲームに起きる。いやすでに起きつつあるのではないか。ということだ。
変化に対してもっとも遅れているのはどこか? FPS系を中心とする欧米のPCゲームの開発スタジオだ。ここ2年ほどのぶざまな結果は、すでに幾度となく指摘しているとおりだ。
今年Half-Life2が発売されると、断言できる人がどれだけいるだろうか? もちろん、いくらなんでも今年出るはずだ。たとえ春から遅れるにしろ、秋には……。しかし本当に断言できるのか? また、ValveからHalf-Life2のソースコードが再び流出しないと断言できる人がどれだけいるだろうか? もちろんあんなことがあって、流出なんて、そんな……。しかし本当に断言できるのか?
やや、どぎつい書き方をしたが、これが今の欧米のPCゲーム界の率直な現状だ。彼らのツールは(最近は改善されつつあるようだが)、ある時点まで1世代以
上遅れていて、素人はそういう物を褒めるかもしれないが、とてもプロフェッショナルが効率的にものを作れる状態ではなかった。
(そういう素人が、これからのゲーム開発はFPSエンジンだ!などという、根拠のない嘘をこれからゲームの世界に入ろうとしている若者にふきこむのはやめ
てほしい、と切実に願う。まぁ彼らには最低限度のモラルも、良心もないのだろうが……。きっと自分の理論が満足すればいいのだろう。)
そうして、時代についていけない、古い体制の会社は今まさに滅びようとしている。英国でとくに顕著なようだが、フェードアウト組がすごい勢いでフェードアウトしている。たとえパブリッシャーとディベロッパーの契約条件をどうこうしたところで、時代についていけない者を守るのは不可能だ。
これは米国でも顕在化するだろうし、いずれ米国のコンシューマーの世界でも顕在化する。米国のゲーム市場の成長はここにきて、急速に鈍化しつつあり、限界は見え始めた。息切れしたところに、開発費の高騰というインパクトが襲ってくれば、どうなるかは明らかだ。
国内で何とかしようとか、国内の開発が立ち直るのを待とうとか、そういうドライブが働かない。あっさり切り捨てるのである。フェードアウト組には冷たいのだ(そのかわり、古い人たちが反省して、新しい時代、新しい別の仕事に適応できるような再教育は充実している)。
ボクはアニメ産業やIT産業のほうが、ゲーム産業よりも、先に変化が起きていると考えている。だから、今年もシリコンバレーの雇用動向には注目していきたい。それはゲームとは全然別の世界の話ではなく、米国ゲーム産業あるいは米国ゲーム開発雇用の未来像だろう。
[梅田望夫・英語で読むITトレンド]IT産業の雇用とイノベーションの未来