7億円もの巨額の宣伝費をかけたといわれる、SCEJの『LocoRoco』の販売が初週3万本と低調なようです。少し前にプロモーションについての議論がありましたが、やや乱暴に言えば、プロモーションに巨額の資金を投じたところで売れないものは売れないのです。
『ロコロコ』のプロモーションについては、wapaさんが冷静な分析を行っています。
わぱのつれづれ日記 ロコロコの苦戦に見る、プロモーション活動の課題
またゲーム系ライターの小野憲史さんが、ご自身の購入に至るまでの過程を語っておられます。
日々つれづれ 2006-07-20 LocoRoco☆LocoRoco
というわけでポイントは「知り合いがブログで誉めていた」こと。やっぱりレビューより売り上げより身近な人の意見が重要なわけであります。それがないと、いくらCMを見てもウザいだけだっただろうし。事前の体験版配布は、個人的にはマイナスでした。もちろん、プロモーションがどうでも良いわけではありません。自動車や家電の例を引くまでもなく、今時のゲーム開発は広報や営業との連携が不可欠です。しかし経営者の方々はまず、良いコンテンツやサービスを生み出すことに経営資源を集中すべきです。それが第1のミッションだということを忘れた企業は、数年もすれば消え去っているでしょう。
大雑把にいって、消費者が実際に商品を買うまでの段階は、「知る」「興味を持つ」「買う」の3つあります。古い考え方では、まず第1に「知る」人を増やそうとします。そのため、テレビCMなどのマス広告にお金をかけるのが旧来のやり方でした。これは非常にもっともらしい。買ってもらう前にはまず興味を持ってもらわなければならず、それ以前にまず知ってもらわなければいけません。なるほど、子供にもわかる理屈です。
しかし昨今のマーケティングを取り巻く言説を追っていくとわかりますが、ちょっとこの常識が崩れてきています。
情報チャンネルの増加にともない、消費者の関心が分散した結果、チャンネル1つあたりの広告効果が落ちています。
また一昨年〜去年は、ネットと雑誌・新聞、テレビの間の広告費の奪い合い、みたいな話も、よく話題にのぼっていました。またHDDビデオレコーダーの普及にともなって、テレビCMの効果が落ちてきた、という見解が出てきて、あわてて電通が火消しに走るという一幕もありました。
単純に情報チャンネルが増えただけでなく、消費者がマスメディアの言う事を信じなくなってきたという傾向も、よく言われることです。実際、このブログの読者のみなさんも、自分自身や身の回りをふりかえって、実感する所があるのではないでしょうか。
しかしこの結果は、企業にとって頭の痛い結果をもたらします。チャンネル1つあたりの広告効果が落ちているという事は、複数の情報チャンネルを通じて、より大規模に広報展開しなければならないからです。「とりあえずテレビにCM打っとけば、マスへの認知度は大丈夫だろ」なんてことは無いわけです。例えば、DSの一連のプロモーションは、実に多様な情報チャンネルを通して行われていたはずです。より多くの人間に知ってもらうには、1つのチャンネルに資金を集中投下するよりも、複数のチャンネルに資金を投入する方が適切です。
でもねえ・・・・。
CNET Japan 「渡辺聡・情報化社会の航海図:マーケティングは変わろうとしているのか」
マクロではマーケティングの効率が落ちている、投資効率が落ちているというのが素直に導き出せる。巡り巡って消費者にも、直接的には投資家にとって良い兆候とはあまり思えない。広告の費用対効果が落ちているにもかかわらず、広告を出さざるを得ず、過去と同じ水準、あるいは過去より高い水準を保とうと思えば、単純に広告費の負担は増えていきます。しかも昨今のメディアの状況を考えれば、しばらくは情報チャンネルの増加(分散)が進み、広告の投資効率は悪くなる一方のはずです。
上記の各社の施策を見ていても、一つ一つ丁寧に考え抜き、積み上げていった上で実績に繋げていこうというのは分かる。なんとなく垂れ流している金額には見えない。手を抜いているなどということはなく、頑張っているのが手に取るように分かる。
しかし、販管費倍増といった決算内容が出てきていたりするのも事実ではある。
「知る」人のうち、どれだけが「興味を持つ」人になるのか。「知る」→「興味を持つ」の比率がおそろしく悪くなっているのが今の時代の特性です。単純にマス広告に資金を投じるというやり方は、きわめて効率が悪く、資金力をもつ企業ならあるいは可能かもしれませんが、多くのゲーム会社にとっては厳しい話です。
最近増えてきた「マスプロモーション第一主義」の論理に従えば、これから先待っているのは開発費の高騰ならぬ、広告費の高騰。PS3とXBOX360が開発費のチキンレースだとすれば、DSの国内市場は広告費のチキンレースというわけです。「プロセッサ性能至上主義」から脱却した次は「プロモーション費用至上主義」ですか? 笑えない話です。
しかも、開発費はその企業の内部にお金が落ちていきますが、広告費は外に出ていくものです。開発費と広告費のバランスは、商品の性質によって変わってきます。にも関わらず、「開発費を削ってマス広告に回せばバカ売れ」などという馬鹿げた電波理論が流布され、ゲーム業界のマネージャーの方々がそんなもんを真に受け始めたら、日本のゲーム企業は競争力の源泉を失ってしまうでしょう。
つーかね、一般にマス広告の費用対効果に不信感が高まっている状況で、ただひとりゲーム企業だけが時代錯誤な認識で動き始めれば、「いいカモがきた」とテレビ広告屋さんは大喜びですよ。だからボクはゲーム開発者が自ら「プロモ、プロモ、プロモ」と連呼することに大きな怒りを覚えるのです。
マス広告の費用対効果に不信感が高まっている中、マーケティングについての議論が高まっています。一時期は「口コミマーケティング」という言葉が流行りました。企業がプロモーション用のブログやSNSを立ち上げる例もありましたが、いわゆる「炎上」が起こるなど、大失敗するケースもあります。去年のウォークマンAの宣伝ブログの大失敗は記憶に新しいところです。
livedoor ニュース - ドコモPR用「SNS」 10日で「炎上」
こうした浅薄な口コミマーケティングの最大の問題点は、従来の雑誌広告、広告記事の延長線上で、ユーザーの言論をコントロールしようとしていることです。ネットユーザーのマスメディア嫌いは非常に顕著ですが、要はみんな、メディアにコントロールされるのが大嫌いなんです。メディア(企業)側がユーザーを信じなければ、ユーザーもメディアを信じません。「不信」の連鎖がマス広告の効果を破壊しているのが現状です。
[R30]: 「メディアイン」というパラダイム
既存のマスメディア広告の凋落の結果として起こっている、企業側の根本的な認知の誤りを、「メディアアウト」という言葉で明確に定義していることである。メディアアウトとは、まず製品ありきで売り込みを考える「プロダクトアウト」の変化形で、「マス広告やセールスプロモーションの企画がまず先にあり、それに見合わない特性の製品やターゲット顧客はマーケティング戦略の初めから除外されてしまう」ようなビジネス展開の枠組み(パラダイム)を言う。これに対して、Web2.0を前提とした世界では、「どんな情報を消費者に伝え、あるいは伝えないかという決定権が企業から失われている」という現実を認識したうえで、既存のメディアとインターネットとを混同せず、インターネットからは消費者の意見・動向を吸い上げて製品改良や企業活動全体に反映させていくような「メディアイン」のパラダイムに転換すべき、というのが山口氏の言い分である。
ここでも、認識を変える必要性が述べられています。
企業が莫大な広告費を出すことで、自分にとって都合のいい記事をメディアに載せ、ユーザーの意識をコントロールするという手法が通用しなくなっています。ソニーが凋落したのも、マスマーケティングに依存し過ぎ、上記の「メディアアウト」型の企業になっていたためです。
このような認識はボクだけでなく、多くのソニーファンにとって共通のものではないでしょうか。
コデラ ノブログ: 製造業の復権 [ITmedia +D Blog]
ソニーが前体制時に衰退した最大の原因は、販社の意向が強くなりすぎたことだと思っている。出井氏も安藤氏も優秀なセールスマンだったが、それゆえに市場の微細な動向に右往左往して腰の据わった動向が見据えられず、いたずらに現場を混乱させた。
(略)
現体制の場合、松下電器の劇的な復活のような、破壊を伴う改革はあり得ないだろう。まずエンジニアの良心が感じられる製品が発売できるか。製品は、言葉よりも雄弁にその素性を物語るのである。
こうした議論を見ていくと、いくつかのキーワードが浮かび上がります。「信頼」「良心」「製品」。後編ではこうしたキーワードを中心に、マスプロモーション衰退後の世界でどうすべきかについて、思う所を書いてみたいと思います。
Posted by amanoudume at 2006年07月22日 22:48 個別リンク