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このサイトは、ゲーム開発、およびゲーム周辺の周辺技術や動向について日々考察し、毒舌的に物を書き続けることを通して、「ゲームの未来形」という大テーマに対して、何か考えを深められるといいなあ・・・・・・というサイトです。

2006年06月05日

3つの不等式の話

デジモノに埋もれる日々:ネタを積み上げろ! - 「涼宮ハルヒ」と「ぱにぽに」に見るネットマーケティング
『ハルヒ』と『ぱにぽに』という2つのアニメを事例に、ネットマーケティングの成功要因を分析しておられます。『ハルヒ』はネットマーケティングの成功例として、着実に認知されつつありますね。ボクも少し思う所を書きます。『ハルヒ』では、公式サイトのような小ネタが継続して出てきたことが話題性につながりました。けれども供給側が用意したネタは全体の一部にすぎません。

『ハルヒ』の口コミでは、MADアニメはユーザーが勝手に作ったものですし、ハルヒを巡る議論の半数以上はユーザーが勝手にテーマを見つけて語り出したものです。公式サイトや、毎週変わる長門の読んでいる本のような小ネタは、どこかのブログに掲載されるニュース的な情報にはなったものの、逆にいうとそれ以上の広がりをもたらすものではなかった、と思います。最も広がりをもったのは、「供給側が直接仕掛けたネタ」ではなく、「ユーザー側が発見し、妄想し、提案したネタ」の方です。これを1つの不等式で表します。

  不等式1:
  供給側が直接仕掛けたネタの持続時間  << ユーザーが発見/妄想/提案したネタの持続時間

ネットでの口コミを期待する場合、小ネタをたくさん仕込むのは常道です。それはアニメに限らず、小説やゲームでもそうです。ボクも自分の関わったゲームで、そんな仕込みをしたことがあります。それなりに効果がありました。しかしあらかじめ大量のネタを仕込んでおくという手法は結局、限界に到達しやすいのです。情報を小出しにしているだけですから。クリエイターの側が用意できるネタの量には自ずと限界があり、1日、2日の話題が1週間ぐらいに延命するかもしれませんが、せいぜいその程度だと思います。
ではどうしたらいいかというと、ユーザーの側に勝手にネタを作ってもらえればいいんです。そうすれば、供給側の制作限界や、更新頻度の限界をこえて、ネタが増殖します。

  不等式2:
  供給側のネタ生成能力および供給頻度  << ユーザーのネタ生成能力および供給頻度

2つの不等式を前提とした時に見えてくるのは、もはやコンテンツの制御権はかなりの部分、ユーザーの手に渡っている、という理解です。

供給側、クリエイターがたくさんのネタを用意して、それを小出しにしていくという方法は、つまるところ供給側、クリエイターの側に主導権があるという考え方です。初期の口コミマーケティングにおいては、こういう考え方でも十分でした。仮に数字にするなら、主導権は「供給(クリエイター)側:ユーザー側=8:2」だったんじゃないか、と思います。まぁこの数字は、感覚的なものをわかりやすく表したものと思ってください。

最近は「供給(クリエイター)側:ユーザー側=6:4」ぐらいになってきた、という印象があります。いやいや、素直に認めましょう。すでに逆転しつつあると思います。これは、供給側の人間にとっては、必ずしも大喜びできる事態ではありません。しかし望むと望まざるとに関わらず、この第3の不等式は徐々に浮かび上がっています。

  不等式3:
  クリエイターのコンテンツに対するコントロール  << ユーザーのコンテンツに対するコントロール

例えば、本来男性オタク向けに書かれたわけではない『マリみて』を萌えられる百合小説として勝手に解釈し、妄想し、消費した事例は、非常に面白い現象でした。女性読者はともかく、男性読者については、もはやコンテンツのコントロールの大部分は作者の手を離れていたと思います。

では、この「作者の思惑・狙いを越えた動き」をどのように供給側は仕掛けたらいいのでしょうか? 狙いを越えたものを狙うという矛盾した概念を、方法論として見出さなければならない。それがマーケティングとコンテンツの最先端の課題になりつつあります。

Posted by amanoudume at 2006年06月05日 23:59 個別リンク
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コメント

はっ、ナニ舞い上がってるの?
結論事象にコメント付けて、いっぱしの評論家気取りか?
そんな姿が滑稽で見に来てるよ。

そもそもマーケティングセオリーは社会科学の範疇。社会科学というのは結論事象から帰納して眉唾な「セオリー」を導き出しているもの。

その意味ではまずは結論事象にコメント付ける作業からマーケティングは始まりますなあ。

自分はこちらの業界とは縁のないところでマーケティングをやっているんですが、事象のとらえ方とか、そこからの推論とか、色々面白くて、また事象の多くが自分の分野でも本当に身につまされる程に共感できることもあったりで、楽しませて貰っています。

「消費者」を相手にしているという点では共通の要素が多い市場、業界は多いでしょうし。。。。

自分のやってる製品を買ってる「消費者」とやらもテレビを見ているときには「萌え」だったり、家との行き帰りでは携帯でゲームやってたりとか、所詮同じ人格を別のタイミングに別の方角から見ているだけなのでしょうし。

こちらの方角からの観察・講釈はとてもタメになりますです。

> 社会科学というのは結論事象から帰納して眉唾な「セオリー」を導き出しているもの。
> その意味ではまずは結論事象にコメント付ける作業からマーケティングは始まりますなあ。

そうですね。
ぶらりんさんのおっしゃる通りで、以前ちょっと書いたとおり、ボクの
書いている分析は基本的には「後付けの論理」です。ごくたまに
天下二分論のような、将来についてのコメントもしますが、それは
どちらかというと例外の部類です。

あらゆる分析は必然的に、後付けの論理だという事は、わざわざ
書かなくても自明だと思っていましたが、中には勘違いした受け
取り方をしてしまう人もいらっしゃるようで、時々噛み付かれます。
みんながぶらりんさんのような認識をお持ちでしたら、いいんですが。

そもそもヒットというものは、せいぜい理論化できて、麻雀の必勝法
ぐらいのものです。結局、経験あるクリエイターでさえ、確率論です。
「こちらの方がうまくいく(確率が高そう)と思う」「この人のセンスを
信じれば、売れる(事が多い)」とか。

少なくとも、ボクが尊敬する類のクリエイターは、全部自分の力だ、
などとは言いませんし、ヒットが確率論だという事を熟知しています。
「ヒットが演繹的に求まる」と考えているような人は、基本的にヒット
した事が無いか、何らかの幻想を抱いているか、嘘つきです。

じゃあ確率論だから、ノウハウも何も無いのかというと、実はそう
ではない、という所が、面白いところです。100%の法則は無い
んだけれども、やはり「張り方」「賭け方」というのはあるんです。

例えば、スクエニの「ポリモーフィックコンテンツ」あたりになると、
確率統計の話に、無理やり演繹法を持ち込もうとしているような
もので、やっぱり大失敗したわけですが。根本的な部分で勘違いが
蔓延しているのかもしれません。「ヒットは確率論であり、確率を
手なずける事が秘密の法なんだ」という当たり前の前提が抜け
てるんですよね。だから妙に「仕組み」の話ばかりになる。

社会科学的に、理論を作っていくことはできるのかもしれません。
ブルーオーシャン戦略なんてのも、所詮はそういう理論の中の
1つをもっともらしく言っているだけですからね。

で、ボクがこのブログでやっている事と言うのは、ゲーム開発や
ゲームデザインの情報共有では「全然無くて」、そんな事はする
つもりはゼロで、確率論というものについて、色々と「法」はあるん
ですけども、さすがにこんな誰でも見られる場所ですべてを
語るつもりはありませんけども、ある程度は共有しようじゃないか、
すなわち「認識」ぐらいは共有しませんか、という事なんです。

 はじまめして。経済感覚零の分析好きです。ライトな対象への極深穿ちな文章は自分でも手本にしたくて読ませて頂いています。

 「涼宮..」は、視覚文化を研究しそうも無い倶楽部で大人しく無い奴らが天も地も用が無い騒ぎをほのぼの学園生活するのを、史上希に見る女好きでも惑星を破壊し得る娘等を仲良しさせる器でも究極の超人でも無い『虚無』な?主人公が受け身で見ている、単なる萌アニメ。って初め見てました(^.^)>。

 一見投げ槍な作り手に見えるけれど、反対から見れば無理に押し付ける物が無い、という事でも在り。そこで思い出したのが、前世紀半ばに難解投げ槍映画?を作った小説家ロブ・グリエの言葉。『作者が読者に望むのは最早完成した世界を出来合いの形で受け取ることでなく『自ら想像に参加すること、自分の手で作品を、そして世界を生み出すこと。そうする事により自分自身の生を生み出すことを学ぶ事』
 もし偶然て事で無ければ、本体は『設定』。アニメは「SFってのはこう遊ぶんだ!」ていう手本、て事(ゲームなら「ドリームスタジオ」とか「RPGツクール」みたいな物)?
 ...と開き直れば、自分の様な年取り過ぎなSFゴタクでも、突っ込み入れつつ楽しめる。という理解でよろしいのかしらねえ??

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