1.ZOO
乙一の短編集。10編の奇妙な短編と1編の不思議な読後感のショートショートから構成されていますが、文庫化の際に2冊に分冊されています。最近は文庫化の時に分冊されることが多いです。なんでも、今時の読者は薄い本を好んでいるからだそうですが。うーん、そんなものなのか。出版社も分けたほうが儲かるんでしょうが。ふーん。そういえば、文字ちょっと大きいですね。
10編の短編には統一感がありません。切ない話、恐ろしい話、感動的に美しい話、おぞましい話、ユーモアな毒に満ちた話。ミステリー、SF、ファンタジー、ホラー、おそろしい童話。しかしそうやって分類するのはちょっと馬鹿馬鹿しいです。何故ならどの話も、奇妙というほかない読書感をもたらすからです。
本来なら10編を両方読んだほうがいいのですが、せっかく2冊に分かれているので、あえてどちらか1冊をオススメするとしたら1巻です。『SEVERN ROOMS』はたった69ページ分の物語とは思えないほど、1つの凄惨な世界を描き出しています。『陽だまりの詩』はオーソドックスな舞台設定から始まりますが、美しい世界がそこにあります。1巻に収録された5編の方が普通に共感し、納得し、楽しめる作品が多いと思います。2巻に収録された短編は毒のあるユーモアが色濃くなっていて、若干好き嫌いを選ぶかもしれません。
2.バッテリー 1
児童文学の世界から一般小説の世界へと躍り出た、あさのあつこの代表作『バッテリー』の第1巻。ハードカバー(全6巻)は教育画劇から刊行されていましたが、文庫(現在4巻まで)は角川書店から出ています。しかしまあ、見出されるべき人は見出されるんだなあ、と思うしかないですね。すさまじく面白い。
自分の才能に絶大な自信をもち、他人と協調するよりも自分を貫こうとする巧。
巧の投げる球を受け止める、彼の女房役となる豪。
病弱でありながら、兄に憧れて野球を始めようとする弟の青波。
地元の高校を何度も甲子園に連れて行った監督だが、家庭では自分の娘との衝突が絶えなかった祖父。
息子の才能を理解できないどころか、ポジションさえ把握していない文化系の父親。
病弱な弟のほうに気持ちが寄りがちな母親。
誰もがしっかり描写されていて、なるほど彼らがぶつかり合い、寄り添い合うところに生まれるのは確かに「ドラマ」でしょう。そして、主人公の巧の才能は、その気が無くても周囲の人間を「巻き込んで」いく強烈な力です。巧の母親は、弟に気をかけすぎているように見えて、巧のこともちゃんと見ています。彼女の「巻き込まないで」という言葉は、息子の才能を恐ろしいほど正確に捉えています。しかし彼が巻き込もうと思って、巻き込んだのではない。その尖った才能、尖った生き方、尖った心はどこへ向かうのか。読者はそのたどり着く先を知りたくて、やはり巻き込まれていくのです。
3.円環少女 1 バベル再臨
文章はクセが強くて非常に読みにくいものの、圧倒的に面白い異能バトル物。
登場人物たちの情念、キャラクターの魅力、物語の密度、膨大な設定、すべてを1冊に放り込んだ高密度なライトノベル。しかし高密度すぎて、小説としてやや破綻してはいるんですが。しかしなんだ、読みにくさにも関わらず、この作品に魅了される読者が少なくないのも事実。
そこを乗り越えるに値する確かな面白さがあります。
しかしこの本も小学生ヒロインなんだよな。性格がサドだけど。
ちなみにライトノベルにおける小学生ヒロインの数が増えている件について。
『紅』 紫(7歳)
『円環少女』 メイゼル(12歳)
『BLOOD LINK』 カンナ(9歳)
『SHI-NO』 志乃(11歳)
4.虚構の勇者
『抗いし者たちの系譜』シリーズ第2巻。作者の三浦良は富士見で今伸び盛りの期待の新人。
魔王と勇者の物語です、というと、おいおい今は21世紀だよ?という声が聞こえてきそうですが、読ませるだけのアイデアが練られた作品。
第1巻『逆襲の魔王』では、勇者が魔王の魔力を吸収して魔王になりかわり、人間と魔族の統一帝国を築き上げ、元・魔王は彼女への復讐を誓い、一介の剣士に身をやつして武者修行の旅をします。そして数年が経ち、新しい魔王は自分の近衛兵を選出するため、諸国から腕の立つ者を集めて武術大会を開きますが、その中にはかつての魔王の姿も。彼は復讐を果たすことができるのか、それとも元勇者の魔王の策謀が勝つのか。
そしてこの第2巻『虚構の勇者』では、「かつての勇者は魔王になった。ならば今の魔王に対する今の勇者がいるはず」という怪文書が帝国上層部に届けられ、いまだ地盤の固まりきらない帝国に、混乱と疑惑の嵐が吹き荒れます。正直、1巻で終わりになると思っていただけに、続きが出たのはそれだけ人気があったということでしょう。キャラクターに魅力があっただけに、確かにもったいなくはありました。しかし1巻の話が話なだけに、新しい敵を作るのが難しいんですよね。3巻以降、話をふくらませる手腕に期待したいところ。
Posted by amanoudume at 2006年05月21日 22:47 個別リンク