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このサイトは、ゲーム開発、およびゲーム周辺の周辺技術や動向について日々考察し、毒舌的に物を書き続けることを通して、「ゲームの未来形」という大テーマに対して、何か考えを深められるといいなあ・・・・・・というサイトです。

2006年04月08日

海が赤くなるから、青い海に逃げるわけではない

去年、レッドオーシャンとブルーオーシャンという言葉が急速に広まりました。
ポータブルオーディオプレイヤーの市場や、ゲーム市場を始め、複数の分野で大きな変化が起こったためです。従来路線を続けることへの行き詰まり感が明確になり、新しい市場を切り拓くことの重要性が認識されました。


しかしブルーオーシャンは、ビジネスの観点からの説明が多すぎました。
ブルーオーシャンの重要性が強調されるあまり、同時にややネガティブな認識も広まってしまいました。すなわち、古い海はすっかり赤く染まってしまったから、早く青い海へ逃げ出さなければ!というような理解のされ方です。この海では食えなくなるから、新しい海に旅立とう。開発費が高騰していくから、重厚長大な路線はやめて、軽いゲームを作ろうじゃないか・・・・。

そうした認識はビジネス的には間違いではありません。プロのクリエイティブはビジネス抜きには成り立ちません。市場やユーザーを無視できるのはアマチュアだけです。しかし、一方でコンテンツビジネスは、クリエイティブ抜きでも成り立ちません。そこが面白いところです。

例えば、「このままじゃ、開発費が高騰して回収しきれなくなるから、軽いゲームをジャンジャカ作ろう!」という理屈はとても正しいのですが、そういう経営の論理だけではクリエイティブは回りません。なかなか良いアイデアが出てこなかったり、差別化が難しい「軽いゲーム」市場において、版権以外の武器をもてず、膨大な数のソフトの中に埋没していくことになりかねません。提携や構想だけは立派でも、具体的なコンテンツの内容がなかなか発表されなかったり、何らの差別化要素も持ち合わせていなかったり。

しかし青い海を切り拓くというのは、「食えないから」という後ろ向きな理由ばかりではない、と思います。
MORI LOG ACADEMY: 何故続けているのか

続けているのは、ようするに、まだ会っていない人間がいる、という希望(あるいは予感)みたいなものだろうか。
トヨタは、クラウンを作った。クラウンは多くの人の欲望を満たした。もっと優れたクラウンを作ることがトヨタの使命になった。しかし、トヨタはあるときカローラを作った。カローラは、クラウンよりも小さく安く、シンプルな車である。クラウンのユーザは、「どうしてそんなレベルの低い車を作るのだ?」と怒ったかもしれない。しかし、今まで車に乗れなかった人たちの需要にトヨタは応えた。まだ会っていない人間がいる、という希望とは、たとえばこういう意味である。
この文章は、小説家の森博嗣氏が一生使い切れないぐらいの収入を得てなお、小説を書き続ける理由を語ったものです。さて、去年ゲーム業界に起きた変化をもとに、この文章の一部の言葉を置き換えてみましょう。
続けているのは、ようするに、まだ会っていない人間がいる、という希望(あるいは予感)みたいなものだろうか。
任天堂は、マリオやゼルダを作った。マリオやゼルダは多くの人の欲望を満たした。もっと優れたマリオやゼルダを作ることが任天堂の使命になった。しかし、任天堂はあるとき脳トレを作った。脳トレは、マリオやゼルダよりも小さく安く、シンプルなゲームである。マリオやゼルダのユーザは、「どうしてそんなレベルの低いゲームを作るのだ?」と怒ったかもしれない。しかし、今までゲームを遊べなかった人たちの需要に任天堂は応えた。まだ会っていない人間がいる、という希望とは、たとえばこういう意味である。
もちろん、この「トヨタ」「任天堂」のかわりに「スクウェアエニックス」を入れてもいいし、「マリオやゼルダ」のかわりに「ドラクエやFF」を入れてもいいでしょう。「セガ」や「ナムコ」でも、「ソニー」でも、「マイクロソフト」でもいい。あるいは、他のゲーム会社の名前を入れてもいいでしょう。
人が創作し続けるのは、世界のどこかに「まだ出会っていない人間がいる」からですし、自分の生み出した作品を通して、その人たちと出会える(かもしれない)と信じているからでしょう。

Posted by amanoudume at 2006年04月08日 01:41 個別リンク
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コメント

こう置き換えるとわかり易いですね。

逃げ込むのではなく「あえてやる」という点が興味深いです。

これは、ちょっとボクの反省でもあるんですけど、ビジネスの話を
やりすぎたな・・・・と。ビジネスの話は間違いではないし、論理的だし、
論証力もあるんだけど、それはある程度やって浸透もしてきた。

実際、ライトでカジュアルなゲームの開発は増加していくと思います。
まぁ海外とくにアジア圏の開発スタジオでやるというケースが多そうな
気もしますが、国内でもプラットフォームによっては増えていくでしょう。

ただ一方でビジネスの話は精神的にひどくチープで、根本的に後ろ
向きな議論になりやすい。開発者もスレた事を言ったりね。

開発者なんてのは、最初は夢見がちで、次にスレた事を言うように
なって、その次に吹っ切れるか、悟りを開くかすればいいんだけど、
スレた所で何年も足踏みしちゃう人も割と多い。

「仕方ない」「食えないから」「儲からないから」というのは確かなんですが、
状況を利用してやりたい事をやってやるという意識があるかないか。

ファミコンの頃でさえ、「ブーム」というのはあって、初代スーマリが
ヒットした後、ドラクエがヒットした後、xxxxがヒットした後、実に安直に
ソフトが増えていきました。まぁパクリの洪水という言い方もできますが、
そこからジャンルが成長したのも確かです。ブームというのは、企画を
通しやすいという事ですから、それを利用して、おかしな物を作っちゃう
人もいた、と。ファミコン当時、RPGと名のついた雑多なものが実に
多かったですね。

今もカジュアルでライトなゲーム、実用ゲーム、脳を鍛えるゲームが
増えつつありますが、それを「自分が作りたかったゲームらしい
ゲーム」が作れない嫌な状況と捉える人もいれば、「好きな事をオブ
ラートにくるんでやれるチャンス」と捉える人もいるでしょう。

良くも悪くも、真面目な人が増えたのかもしれません。「所詮ゲーム
でしょ」「たかがゲームでしょ」と言われていた頃に比べて、良く出来た
ゲームは増えましたが、元気なゲームは減った気がします。
(あえて面白いとはいいません)

頭を柔らかくして、状況をポジティブに捉えた方が得だとは思います。
なかなか難しいのかもしれませんが。

>元気なゲーム

昔と比べると無茶が出来なくなった
成熟してきたという証拠なのかもしれませんね。
たまにびっくりするようなゲームを
出すところがありますが、任天堂とかセガとか意外と大きい会社で
そう言うゲームが出てくる、というのは人を育てるシステムがちゃんとしてるのかなぁと思ったり、
思わなかったり。

ビジネスの評価、というか、基本的に決算書を見て評価すると後ろ向きな評価になるから、というのはあるのかもしれません。
それから投資する間しか見ない
とか割り切った考え方にもなりますね3年間投資して5年間で元を
取るつもりならその後の事は一切考えない、見たいな。

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