DSのソフト市場についてネット上の分析を読むと、「従来のゲームは苦戦気味で、新機軸のゲームが売れている」とか、「ゲームゲームしたゲームはパッとしないが、実用性のあるゲームが売れている」といった見解をよく見かけます。
確かにDSはゲームらしいゲームがパッとしません。タッチパネルの導入で新しいゲームを作ろうという試みは、『キャッチ!タッチ!ヨッシー』や『タッチカービィ』などいくつかの例があり、一部のゲーマーから高い評価を得ましたが、それほど広がりませんでした。Web上に転がっているマウスゲームを持ってきたようなゲームも、あまり受けがいいとは言えません(そもそも移動とクリックが分離されているマウスと、一緒になっているタッチペンはかなり違うので、案外持っていきにくいのです)。
タッチパネルの使い方を見ると、既存のゲーム操作をタッチペンで代替しているゲームは苦戦している印象があります。一方、『脳トレ』のように「文字や数字を書く」という動作をそのまま生かせるソフトや、日常的な動作を素直に取り込んでいるゲームが成功しています。
例えば、『たまごっちのプチプチおみせっち』がミリオン。たまごっち人気があってこそ、とはいえますが、実際に遊んでいない人が軽く見ていたりします。「どうせたまごっち(人気に乗っただけ)でしょ・・・・」と判断した人もいたのでしょうね。
ところがボクが発売直後に一通りプレイした感じではなかなか良かった。革新的なゲームデザインはありませんが、「ままごと」感が良く出ていて、素直で楽しい作りです。同様に「ままごと」性をより突き詰めた(と思われる)ゲームとして、タイトーの『クッキングママ』があります。発売されておらず、実際に遊んでいないので、評価はできませんが、「タッチパネルと料理」というのは素直な考え方で、好感がもてます。料理ゲームというと、『俺の料理』が念頭にうかびますが、まだ決定版といえるようなゲームは出ていませんから、ゲームデザインの余地は大いにあるでしょう。
しかし「ままごと」系ゲームは何も新しいものではなくて、GBAの頃から地味に出ていたんですよね。GBAは女の子の所有率が高いこともあって、女児向けのソフト市場ができていました。職業系のゲーム、占いゲーム、電子手帳的ツール系ゲーム、ペットゲーム、教育系ゲーム(『四角いあたまが丸くなる』など)が出ています。
この市場は、発売直後にしか売れないゲーマー向け(特に男性)の市場とは異なり、棚に置いておけば、じわじわ売れていく傾向があります。また女の子のお客に来てもらうという意味でも品揃え的な価値があります。
しかし一方で、あまり注目されていなかった「日陰市場」だったのも確か。ゲーマーはあまり注目しませんし、ゲーム雑誌もほぼスルーしています。職業系についてはポップ・コラムのモリサワジュン氏が以前取り上げています。さすが。
●ポップ・コラム [No.0315] 『まんが家デビュー物語』レビュー
●ポップ・コラム [No.0447] DS『まんが家デビュー物語DS』
ところが2005年には状況が一変。ゲーマーが注目し、ゲーム雑誌が特集を組むようなソフトはDSに限らず、2005年を通して元気が無く、それまで脚光を浴びていなかったタイプのゲームの活躍が目立ちました。ペットゲームといえば、『nintendogs』。ままごとゲームといえば、『プチプチおみせっち』。教育系といえば、『脳を鍛える大人のDSトレーニング』『やわらかあたま塾』。電子手帳といえば、バンダイが春に電子手帳ソフトをDSで展開しますね。女児向け玩具をやってるだけあって、ちゃんとわかってます。
後づけの理屈と言われればそれまでですが、DSはGBA時代に地味に続いていた市場に光を当てた、といえます。「種」はGBAの頃にあったわけです。ある日突然、異次元空間から市場がわき出したのではありません。もちろんゲームデザインやクオリティの面で大きな上乗せがあったから成功したのですが。
最近ちょっと気になっているのは、一部のゲーム開発者の視線がゲーマーと同じになっていること。
年末にちょっと書いたんですが、『脳を鍛える大人のDSトレーニング』のゲームデザイン的に優れている点がネット上で全然言及されていなかったんですよね。まぁゲーマーが注目しないのはわかりますし、ふだんゲームデザインについて熱く語っているような人でも、結局は理論武装したゲーム大好き人間ですから、取り上げないのもわかります。お客さんは好きなゲームを語ればいい。
ただ、ゲームで飯を食っているプロのゲーム開発者が、ゲーマーやゲームデザイン論者と同じ視点というのはどうなんでしょうか。そりゃ『ワンダの巨像』はたぶん素晴らしいゲームでしょうし、『龍が如く』も思っていたよりずっと良い出来でしょう。他にも、ゲーム開発者がオススメするゲームはいくつもあります。が、どれもこれもゲーマーと何も変わりません。おまけに「いいゲームなんだよ」「ネットでの評価も高いんだ」とか言っちゃう。まぁ、出来が良いけど売れないゲームを他人に薦めたい気持ちはわからなくもありませんが・・・・ゲーマー心理だよなあ。
「ネットで評判」って、いったい誰に評判なんですかね? 『メテオス』の頃から言ってるんですけど、ゲーム系ブログで絶賛されたところで、そんなに広がりはしないんですよ。毎日ゲームをやっているような人が、毎日ゲームについて書いているブログを巡回しているだけの、そういう狭い世界じゃないですか。
毎日ゲームについて書いているブログと、ふだんゲームについて書いていないブログでは、取り上げられた時の意味も効果も全然違うわけです。ゲーム系ブログに注目されていないソフトのほうが世間では売れていたりします。ボクは「注目されなかったら、むしろ喜んだほうがいいよ」と言っているぐらいです。
ネットの評価も1つの評価ですから、無視しろとは言いません。ありがたいものです。でも仮にもプロが同じ視点しか持てないのだとしたら、そりゃゲームが売れなくなっていくのもわかります。ボクは、プロというのは「より多様なユーザーの視点を持つ」べきだと思います。ゲームを作りたいなんて人間は、そのままでも世間から見れば、十分ゲーオタだし、ゲームに精通してるんです。どれだけ精通しているかを誇るのは素人のやることでしょう。
ゲームが売れないと嘆くあなた、今あなたはどこを見てますか? 『ブルーオーシャン戦略』を買ったあなた、どこを見てますか? 日向ですか、日陰ですか?