読売オンライン 「ゲーム機依存から脱却、ネット事業の収益強化」
スクウェアエニックスの和田社長が、ゲーム機依存の体質をあらため、携帯電話とPC向けのオンラインゲームにシフトしていくと宣言しました。和田社長はかねてから「オンラインゲーム」「マルチプラットフォーム」を掲げていますし、ドラクエのマルチプラットフォーム化も示唆したことがあります。
ここ数年、オンラインゲームにとって最適なプラットフォームはPCと携帯電話でした。しかもこれから数年、その状況に変化はありません。次世代据置ゲーム機はいずれもオンライン機能を標準装備しますが、いずれも不完全です。
XBOX360はもっともオンラインゲーム性能が高いハードですが、日本以外の地域ではHDDが標準搭載されません。レボリューションは内臓メディアを標準搭載しているものの、512MBという容量はMMORPG向きとはいいがたい。PS3はオンラインゲームへの方針も不明確、内臓メディアもなし、かつてのPSBBは大失敗、という最悪のプラットフォーム。
また、いずれのプラットフォームも、中国市場での浸透率が低い状態です。中国市場での展開は始めていても、大きな成功をおさめているとは言いがたい。少なくともあと5年は、PCが最大のゲームプラットフォームでしょう。
(ところで正直、ボクはゲーム機メーカーの対中政策はどれもダメだと思っています。まだ中国はスポット型のビジネスが中心。昔の日本でも、ゲーム産業はアーケード(スポット型)から誕生し、「アーケードゲームが家でも遊べる」という付加価値によって、テレビゲーム機が家庭内に浸透していきました。昔はおもちゃの店頭で、ファミコンを1分10円とかで遊べましたよね。ボクはいずれのゲーム機メーカーも、「ファミコン」成功後の論理で動いていて、原点を忘れているような気がしてなりません。とりあえず手元にあるものを売ろう、という発想では、いつまでたっても普及は望めないでしょう。)
したがってオンラインゲームを経営の柱にしつつあるスクウェアエニックスがゲーム機離れを起こすのは自然な判断です。スクウェアエニックスは組込み向けのUIエンジンを手がけるUI Evolutionの買収をしていて、セットトップボックスのインターフェースを制作しています。ゲームで培ったノウハウをゲーム機以外の領域に適用した好例といえます。
○ブロードバンドWatch プロバイダーを問わない映像配信サービス「オンデマンドTV」
○Life is beautiful 「ゲーム・デザイナーのユーザー・インターフェイスへのこだわり」
またスクウェアエニックスはCG映像の分野でも、大きな成果をあげました。「FF7 アドベントチルドレン」の販売が初週42万本。消化率は93%を越え、売り切れ店が続出。予想を大幅にこえる大成功といえます。フルCG映画「ファイナルファンタジー」は大失敗しましたが、まさに執念というか、「継続は力なり」という言葉どおりでしょう。
○ジーパラ 「売り切れ店続出!?『FF VII AC』の初回販売本数は42万本!」
○まこなこ 「FF7 AC」が売れているらしい
○伊藤計劃:第弐位相 「アドベントチルドレン」 (成功の理由は美男美女を描いたこと)
坂口博信氏がスクウェアに在籍していた頃、次のステップとして「映画」と「プレイオンライン」を掲げていました。どちらも失敗し、坂口氏は経営責任を取ってスクウェアを離れることになりましたが、方向性そのものは間違っていなかったと思います。ただ、いかんせん早すぎました。5年早かった。しかもスクウェアは短期間に過剰投資しすぎました。
またプラットフォームとして「ゲーム機」を重視したのも失敗でした。当時ジャンプと組んで、漫画のダウンロード配信を立ち上げようとしていましたが、今まさに携帯電話でそれが実現しているわけです。携帯電話での電子書籍市場が急成長しています。
1つだけ今のスクウェアに問題点があるとすると、「FF11」のような大作オンラインゲームはあるものの、提供するオンラインゲームのバリエーションが少なく、ハンゲームのような位置づけのサービスもありません。ターゲットユーザーをマニア層に限定しすぎています。「いたスト」にドラクエ、FFの世界観を融合させて売上を大きく伸ばしたように、ドラクエ、FFの世界観をつかった軽いゲームを積極的に展開したほうがいいでしょう。有力な自社版権を抱えているのが強みですから、ネットゲームのライト層を獲得する戦略を進めるべきです。
例えば、大作MMORPG中心だった韓国のNCSoftはミドルユーザー、ライトユーザーを獲得する路線を打ち出し、ポータルサイトの運営を始めます。またセガがオンラインゲームとコミュニティサービスを提供するポータルサイト「SEGA link」を開始しています。
このブログや社内ブログなど、あらゆる機会をとらえて主張していることですが、ボクはあと10年もすれば、ロイヤリティを始めとする「ゲーム機ビジネス」というものは消えてなくなる、と思います。ゲーム機というハードウェア製品そのものが無くなることはないでしょうが、ロイヤリティなどの「ファミコン」ビジネスはなくなるでしょう。ゲーム機メーカーも、ソフトメーカーも、いつまでもそういう古臭いビジネスに依存していれば衰退は目に見えていて、そろそろ「次」というものに向かわなければいけません。
○狭くなりすぎた「ゲーム機」ビジネス
○次世代で加速するマルチプラットフォーム
○ゲームクリエイターは次世代ゲーム機の夢を見るか?
いまやゲーム機の世界は「かつての欧州」のようなもの。3人の王様が争っていて、領土の奪い合いに夢中になっているものの、目端の利く連中は新天地をめざして旅立っています。旧大陸から新大陸をめざして大移動した者が、次の繁栄を築くのでしょう。もちろん「欧州の王様」も、それぞれのやり方で、新大陸を始めとした「新領土」は開拓するでしょう。ソニーは家電との融合やプロセッサ性能で、マイクロソフトはXBOX Live!で、任天堂は新しいインターフェイスで。
しかし新大陸に植民地を確保していた欧州勢も、結局は新大陸に軸足を移した移民たち(アメリカ)には勝てなくなりました。おそらくゲーム機(のロイヤリティビジネスやそこで動くソフト)を捨てるということを決断できるメーカーとできないメーカーで、10年後の勝敗が分かれるのでしょう。
いよいよ次世代ゲーム機戦争が始まります。どこがシェアを伸ばし、どこがシェアを縮小するのか。いろいろな人がさまざまな意見を持っているでしょう。もちろんボクも天下二分論のように意見を持っています。しかし、しょせん「旧大陸の戦争」の話にすぎません。それなりに意味はありますが、大きな意味はありません。
別の見方をすれば、ソニー、マイクロソフト、任天堂の3社はあと5年間も「旧大陸の戦争」に力を注がねばならず、かなりのリソースをそこに奪われるわけです。
「次の10年」という長期的な視野で見れば、「5年も出遅れる」という点でマイナスであり、ゲーム機メーカー3社は「10年後の負け組」になりつつあります。ソフトメーカーにとって、この5年間は10年を制すための貴重な期間となるでしょう。2度にわたる世界大戦で、世界の覇権は欧州から米国に移りました。ゲーム機メーカーの競争の激化に巻きこまれ、無駄に消耗していくもよし、距離を置いて力をたくわえるもよし。10年後笑っているのはいったい誰でしょう?
さあいよいよ「次の10年」が始まろうとしています。それでは、10年後の未来に乾杯!
コメント
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投稿者: アップル信者 | 2005年11月07日 11:19