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このサイトは、ゲーム開発、およびゲーム周辺の周辺技術や動向について日々考察し、毒舌的に物を書き続けることを通して、「ゲームの未来形」という大テーマに対して、何か考えを深められるといいなあ・・・・・・というサイトです。

2005年09月24日

未来を捨てた企業に未来はあるのか?

失望を極めた経営方針説明会

22日、ソニーは経営方針説明会を開催。ストリンガー会長、中鉢社長がひきいる新経営陣による「ソニーの経営改革」が発表される・・・・はずでした。しかしその実態は、日経が16日に紙面に掲載した、金融売却を始めとするソニー再生計画「日経プラン」よりもはるかに後退したものでした。

また、決算予想もマイナス修正。まあ最近のソニーはマイナス修正が珍しくないのですが、ついに11年ぶりの営業赤字。復活は遠のいた・・・・という失望のため息が多くの人からもれたことでしょう。実際の報道を見てみましょう。
    ○日経 「ソニー会長:新経営方針、出井前CEO時代と基本戦略は同じ」
    ○日経ビジネス 「新しい方向性欠く、ソニーの新経営戦略」
    ○MSN-毎日インタラクティブ 「ソニー:エレクトロニクス不振をゲーム収益でカバーできず」
    ○AV Watch 「ソニー、新経営方針を発表。05年度営業利益は200億円の赤字」

未来を切り捨てたソニー
選択と集中と掲げるのはいいのですが、撤退と縮小の具体例としてあがったのは 「クオリア」と「キュリオ」だけ。どちらも現在のビジネス規模が小さく、この2つを切ったところで、他の部門にそれほどリソースを回せるわけではありませ ん。まあクオリアは的外れもいいところだったので、切るのは良いとしても、「キュリオ」に代表されるロボット事業を縮小するのは、時代に逆行する選択で しょう。 エンターテイメント向けロボットは今後、成長が期待されている分野の1つです。実際、IT系ニュースサイトでも、ニュースをよく目にするようになっていま すし、日本が独自の優位性を発揮する産業になる可能性もあります。 たしかにロボット事業は今後1年、2年ですぐに利益を生む分野ではありません。おそらく5年以上かかる、まあ下手すると10年後のビジネスです。今は小さ いでしょう。 しかしそれでは全然、この数年の反省を生かせていません。 梅田望夫・英語で読むITトレンド 「Jobsの復帰とiPod決算、そしてWozniak」
大型既存カテゴリーの新商品ではなく、新しいカテゴリーを創出しようとする場合、どんなものでも始まりは小さい事業なのだ。この シンプルな原則を忘れてはならないというのが、iPodから得るべき教訓だと思う。巨大化した日本の大手企業は、生まれようとしている小さい事業をバカに しすぎる。「えっ、売り上げ50億円? 年ですか? 月じゃないの? そんな小さい事業はうちではできないねぇ、もっと大きな話をもってこい」なんて思っている幹部が多いから、新しいカテゴリーの創出がなかなかできないので ある。

もう1つ。トヨタのハイブリッドカーという例もあります。こちらは何年もかけて地道にやってきた成果が、ある日新しい価値が「発見」されて、競争のルールを変えるイノベーションになったケースです。
R30::マーケティング社会時評 「環境が無敵のポジショニング軸になる日」

かつてトヨタ車などには脇目もくれなかったタイプだ。その彼がなぜハイブリッドが載ったレクサスなら買うのか?理由を聞いてみると、「モーターの加速を味わってみたいから」と言う。

眞鍋かをりと一緒に退屈なエンジン講義を聴いた人なら分かると思うが、排ガス低減・省エネのためだとばかり思っていたハイブリッド・エンジンに、実は高トルク走行時のガソリンエンジンの動力効率の悪さを電気モーターでカバーするという、新しい使い方があることを示した。

未来を捨てて、現在の利益だけ追いかける。そんな企業に未来はあるのでしょうか?
追いつくことしか考えてない、追い抜こうという気概がどこにもありません。

久多良木氏の夢、潰える

元々Cell構想をぶち上げたのは久多良木氏です。久多良木氏はインテルのビジネスモデルを高く評価しており、PSシリーズの需要をてこに、Cellアーキテクチャを娯楽機器およびデジタル家電のx86アーキテクチャにすることを狙っていました。
後藤弘茂のWeekly海外ニュース 「久夛良木健氏が語る、ソニーの半導体戦略」

ソニーの発想は、半導体屋さん的発想でなく、Intel的な発想だ。半導体的発想だと、集約すると二重苦、三重苦になってしま
う。(チップ当たりの)単価が下がって、売値が下がり、また、製造キャパシティが余ってしまうから。それに対して、我々は、半導体及びシステム事業をやっ
ている。それが強み。
Intelさんが競争力を維持できているのは、彼らが毎年毎年膨大な利益を上げて、再投資をかけているから。設備投資と研究開発に利益を注ぎ込むから、
IP(知的所有物)がどんどん積み上がり、製造能力が積み上がる。素晴らしいサイクルだ。

これは当然、継続的な追加投資を前提にした話です。この記事は2003年のもので、当時は久多良木氏がソニーグループの経営に深く関わっていましたし、社
長の有力候補でした。
ところがPSX、PSPと失敗をくり返した結果、久多良木氏は降格。ソニーグループの半導体戦略は、それまでの舵取り役を失い、方針が不明確になりまし
た。しかし不明確といっても、半導体事業への投資は数年前からおこなわれており、数千億もの規模にふくらんでいます。久多良木氏が失脚したからと言って、
「はい、やめました」ではすみません。
ソニーの新経営陣が下した判断は、
    ・Cellへの数千億の投資は回収しなければならない。
        PS3単独では厳しいので、Cell搭載のデジタル家電を開発する
        「Cellディベロップメントセンター」を新設
        →Cell搭載製品が仮に成功してもSCE=久多良木氏の手柄
         にはさせない、という意味もあります
    ・継続的にCellアーキテクチャに投資するつもりはない。
    ・今後はゲーム部門の「暴走」を許さない。きちんと利益を上げてもらう。
というものです。
日経エレクトロニクス 【続報】ソニーの経営方針,「2007年度に売上高8兆円,利益率5%」
同社の2003年度〜2005年度の研究開発投資は5000億円である。このうち2500億円が家庭用ゲーム機向けの投資だった。「今後はゲーム事業への大規模な研究開発投資はしない。ゲーム事業は今後ゲーム事業の中で収益を確保する体制としていく」(中鉢氏)。
Cellそのものは、今さらやめられませんが、久多良木氏の夢である「Cellを娯楽機器とデジタル家電のx86にする」は潰えたのです。

しかしこの判断も中途半端ですよね。久多良木氏の夢を支持するつもりはありませんが、少なくとも「未来」は持っていたわけです。でもソニーの新経営陣のやろうとしてることは、「過去」の清算ですよね。ここでも「未来」を切り捨てる姿勢が浮きぼりになっています。

(ちなみにソニーグループとしてはPS3を来春に発売する意向のようで、PSX、PSPと続く「出しちゃう」パターン
なったようですね。無茶なスケジュールを強行した時は、毎回失敗してるわけで、SCEとしては悩ましい事態。まぁソニーの新経営陣にとって、久多良木氏は
政敵ですからね。PS3が来春に間に合わなくても、PS3がPSP同様に初期不良等でつまづいても、久多良木氏に責任を取らせればいいわけで。なかなか面
白い事態になってきました)

アイデンティティ・クライシス

出井氏の経営多角化によって、ソニーは自らのアイデンティティを見失いました。
日経ビジネスの記事
も指摘されていますが、「ソニーが金融を持っていてどうするのか?」という問いに答えを出せないままなわけです。多くの人が新経営陣に期待しているのは、
「未来のソニー像」を掲げることです。リストラする人数を聞きたいわけではありません。ここでも新経営陣は「未来」に背を向けたのです。
16日に日経が掲載した「日経プラン」は金融、スカパーなどを売却するという再生案で、あれがパーフェクトだとはいいませんが、少なくとも「アイデンティ
ティ・クライシス」という根本的な問題を解決するものでした。そこは評価していいと思います。
出井氏は、ソフトとハードの融合などと言っていましたが、具体的なビジョンは何もありませんでした。会社だけ買ってきて、近くに置いておけば、勝手に化学
反応を起こして何かが生まれると思っていたわけです。それって何も考えてないのと一緒ですよ。その出井氏の基本方針を、新経営陣は継続すると宣言している
わけです・・・・。
先日、「成功しているソフト企業の共通点」という記事を書きました。ここでソフト企業といってますが、じつはこの3社、すべて「ソフト、ハード一体型」の企業なんですよね。今回はそのうちアップルを例に取ります。

梅田望夫・英語で読むITトレンド 「スティーブ・ジョブズ、コンテンツ産業の未来を語る」
ジョブズ氏が音楽ビジネス(サブスクリプションモデル)や、映画と音楽の違いについて語ったインタビューの一部が紹介されています。ジョブズ氏の語った内
容のすべてが正しいとはいいませんが、1つこれだけは言えます。ジョブズ氏は「ユーザー体験」というものを理解し、想定し、それを中心に商品を構築してい
る、ということです。アップルのソフト部門とハード部門が勝手に化学反応を起こしたわけではありません。
日経エレクトロニクス 「Appleにあって,ソニーに足りないもの(上)」

iPodの開発チームの誰もが,よく口にするフレーズという。User
Experienceとは,製品の機能や性能を議論する前に,ユーザーにどんな経験を提供できるのかという視点から,製品コンセプトを練るアプローチを指
す。ユーザーを中心に据えた設計手法と言い換えてもいい。

ユーザー体験、ユーザーの利便性を理解したうえで、はじめてソフトとハード一体型の経営ができるんです。「ユーザー体験」という結合力があって、ソフト
(サービス)とハードが密結合するわけです。ソフトのアーキテクトとハードのアーキテクトではなくて、ユーザーの体験をどう構築するかというアーキテクト
が必要なんです。そういう人材がいなければ、並べて置いてあっても酸化して錆ついて終わりですよ。といいますか、出井氏はそうやって錆びつかせちゃったわ
けじゃないですか、ソニーを。
新経営陣は、そこを全然反省できてない。これからもっと錆びついていくだけですよ。トップメーカーをパクるだけの二流メーカーになっておしまいですよ。情
けない……。

Posted by amanoudume at 2005年09月24日 00:08 個別リンク